どんな気持ちで
少し開いた所で、サッと風のように入ってくる人物がいる。後ろ手でドアを閉めるやいなや、床にいたレイティアを抱き止める。
「おい、あんた!大丈夫か?!待たせて済まなかった!」
それはカインだった。何故そんなに心配しているのかと思ったが、考えてみればレイティアは寝過ごしてドアも開けなかった。そして寝起きで急に歩いたためにフラついて、ドアを開けたら無意識にそのまま座り込んでしまっていたのだ。
カインからすれば、中で待っているはずのレイティアから何の反応もなく。やっとドアが開いたかと思えば、床にへたりこんでいたのだ。レイティアを見た瞬間、何も考えられずに抱き抱えてしまった。恐怖にも似た感覚だったかもしれない。
そしてそのレイティアからは何の反応も無いままだ。
「おい!本当にどうかしたのか?頼むから返事をしてくれ!」
カインは今純粋にレイティアの心配をしてくれている。家族以外のそんな感情に久しぶりに触れて、少し心地好くなってしまった。軽く微笑みながら、レイティアはカインに話しかける。
「話し方、最初に戻っちゃいましたね。フフッ。大丈夫です、カイン様。何もありませんでした」
カインはまだ必死な表情だ。
「本当に大丈夫か?返事が無いから、ドアを魔法で壊そうと思ったぞ。自分で魔法を掛けといてなんだが、外からの解除が本当に難しくて。いっそぶち壊すとこだった」
「返事が遅れてしまってすみません。思ったより深い眠りについていたみたいで…。特に何もありませんでしたよ。」
カインは訝しげにレイティアを見る。そして言いにくそうに伝えてくれた。
「あんた、昨日からほとんど寝っぱなしだったろ?で俺が居なくなってからも今までずっと寝てたって、本当に体調は大丈夫なのか?それに…泣いてる…」
カインがそっとレイティアの頬の涙を拭う。それに驚いたのはレイティアだ。
「えっ……?!泣いて…?」
今度こそ焦って自分で頬を触ってみると、やはり濡れていた。泣いたつもりも無いのだが、過去の夢を見たせいなのだろうか。涙を見られて恥ずかしい気持ちになったが、改めて思えばそれよりもカインに抱きしめられている状況の方に照れてしまっていた。
レイティアはさっきまでの自分が信じられなかった。やはり寝惚けていたのだろうか。男性に抱きしめられて心地好いだの微笑むだの、何を考えていたのか。どんどんと恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「す、すいません!夢見が悪かったみたいで!」
今度はレイティア自身で涙を拭う。顔が赤いのも消えればいいのにと思いつつ、まだ抱きしめられたままなので消えそうもない。
「そうか。それならいいんだが。…無理してないか?」
カインが優しく尋ねるが、何せ距離感が近いのでまるで囁かれているようだ。もはやレイティアは耳まで真っ赤になってしまった。
―ち、近い!近すぎるわ!この距離で格好良すぎるカイン様のお顔を見るのは無理だわ!…帝国の騎士様だけど今度の式典に参加したら、王国の貴族令嬢達はミハイル殿下そっちのけで大はしゃぎになりそうね―
どうでもいいことを考えて、少しクールダウンを図る。平常心で会話しなければ、カインにおかしいと思われてしまう。
「え、えっと、大丈夫です。本当にすみませんでした!寝惚けてて足に力が入らなかったみたいで。もう大丈夫です!」
そう言ってカインの腕にそっと触れて、離れてくれるよう促す。そこでカインがハッと気付いた。
「わ、悪い!何か問題が起きて立てないかと思って、支えてたんだ!もう大丈夫なんだよな!?」
レイティアの身体に力が入っているのを感じて、カインはパッと手を離した。すると密着した部分が無くなったので、カインの顔は遠ざかりレイティアは少し落ち着いた。




