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どうすれば良かったの

 


 ――――――



「君は全く可愛げがないな、レイティア」



 ―今度はいつの夢かしら…でも彼の見た目からすると、割りと最近の気がするわね―



 この言葉は成長したミハイルによく言われていた。共に王国の将来の為の教育を受けていたが、その成績がミハイルを超える事がよくあった。その都度ミハイルが言うのが、この言葉だった。



 レイティアは懸命に努力して、その結果ミハイルより好成績だっただけなのだ。そもそもミハイルを負かしてやろうと思って学んでいる訳ではないのだから、気にしなければいいのに。



「そんなに必死になって勉強して、私を見下して楽しいか?」



 勘違いも甚だしいのだが、近頃のミハイルはもはや幼少の頃とは別人と言えるくらいに変わっていた。可愛らしさの残る顔立ちから眉目秀麗な青年へと変わり、それだけではなく物言いなどもすっかり王太子のそれとなった。



 レイティア自身も成長したが、そこまでは見た目や態度も変わっていないと思っているのだが。幼少期からミハイルと共に良き学友として接してきたレイティアは、近頃の尊大な()()()()()()()殿()()の態度にガッカリしていた。



 小さな頃から少しばかりそんなところもあったが、たまにだったのでレイティアはあまり気にしなかった。王太子という地位にあれば、それが普通なのだろうと受け止めていたのだ。



 そして共に机を並べて勉強し、婚約者よりも学友や好敵手のような気持ちで接していた。幼すぎて恋愛という感情が沸かなかったのだ。きっとお互いに。それでも将来は二人で国を守っていこうと思っていた。レイティアは与えられた役割をこなすことに疑問は無かった。



 はずだったのだが…。ミハイルはある時から急にレイティアへの不満を口にするようになった。それもレイティアに直接。度々気分を害されるし、ならばミハイルに会わずに1人で学んだ方が気が楽だとだんだん思うようになった。



 顔を会わせれば「可愛げが無い」「もっと可愛い婚約者がよかった」などと言われるのだ。そんなことを言われてもレイティアにはどうにも出来ない。かといってミハイルの好みに合わせるように、可愛い服を着たり甘えてみたりも出来ない。まずもってタイプ的にレイティアには合わないのだ。



 むしろ、心の中で余計なお世話と思ったりするそんな所を見透かされて可愛くないと言われるのかもしれない。



 別にミハイルに可愛いとか綺麗とか誉めて貰いたい訳でもないが、面と向かって貶されるのが苦痛なのだ。人間誰しもがそうだろうと思う。かといってこちらから皇族にやり返す事も出来ず、ただ我慢するしかないのだ。



 そして溜まった鬱憤を勉学に向けてしまい、更に猛勉強しまたミハイルに貶されるという悪循環にも陥っていた。勿論家では家族が可愛がってくれるし、走ったり馬に乗ったりして適度にストレスは発散していたが。それでも苦痛は苦痛だった。



 何故ミハイルはあんなにも変わってしまったのか。今では自分を諌める人間を遠ざけるようになって、昔からの側近達も重要な仕事から外されてしまっている。考えてみれば、レイティアを貶すようになった時期と側近が変わった時期は同じだったかもしれない。



 そしてその頃から、ミハイルの学ぶ姿に真剣さが欠けてきた気もする。レイティアがもっとミハイルの声を聞いて、受け止めていれば良かったのか。側近達のように厳しく諫めればよかったのか。



 ミハイルの暴走とも言える変化をレイティアは止めることが出来ず、しばらくたった。そんなある日、またミハイルに嫌みを言われていたのだが。その日のミハイルは酷すぎた。



「レイティアは勉学にしか取り柄がないな。だからそんなに必死なのか?」

「…」

「何故魔力も無い君が王太子妃になれるんだろうな?」



 魔力がないのは百も承知だが、婚約を破棄しなかったのは王家側だったはずだ。レイティアは努力してもどうにもならない事に囚われないよう、魔力の事は気にしないようにしていた。



 それをミハイルから触れてきた上にこの発言。今さら何を言っているのか。レイティアは心底疲れきってしまったのだった。

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