これから
そんな最精鋭の部隊を率いているのが、厳しくも優しいトマスということだ。理解ある隊長、特殊な任務など様々な要因によるが第三部隊は部隊内の結び付きが強いという特徴もある。
「皆にもしばらく迷惑をかけます。すいません!」
「だから気にすんなって。そもそも誰も気にしねーぞ」
ニカッと笑うトマスの態度がありがたい。
「ところでレイティア嬢の護衛にあたって、匿う場所はどうしような?ここの方が安心だが、真っ昼間から帝国騎士団と歩く姿を見られる訳には行かないしな。やはりしばらくカインの別宿にいてもらうか」
「そうする他ないかもですね。他のヤツにもう1部屋借りてもらえますか?俺名義の部屋は1人しか休めないんで」
カインの部屋にレイティアが休んでいるが、深夜に窓から入ったので宿屋にはレイティアの存在は知られていない。そのままカインが使っているように見せかけはするが、実際にカインが休んだりする為の部屋をもう一部屋用意するということだ。
「そうだな。モーリスに頼もうか。あとはしばらく必要な物も持たせておこう」
「よろしくお願いします。あ、あのレイティア嬢は服とかも無かったんでそれも…」
「適当に見繕っておこう。ただ、貴族令嬢のドレスとまではいかんがな」
「すいません、よろしくお願いします」
レイティアに服を用意するとは言ったが、カインは自分で選ぶ自信など無かったので隊の方で用意してもらえて非常に助かった。女性の好みの厳しさを家族で学んでいたので、つい及び腰になってしまうのだ。
皇族の女性達の好みの厳しさと言ったら、それはもう大変なものだ。カインが必死に選んだところで、流行りじゃないだの色が違うだの、挙げ句には重いだのまで言われる始末だ。アクセサリーをプレゼントして、重いと言われてもカインは着けたことがないのだからそこまでは知るかと思う。
しかし、それを言ってしまうと優しくないとか何とかまた始まってしまうので黙って耐えるのみなのだが。その面倒な皇族女性が家族だけで五人もいるのだ。皇妃三人、妹二人。単純に誕生日だけでも年に五回はプレゼント選びが待っている。
カインが女性のものを選ぶのが苦手になるのも、分かるというものだ。
「当座はそれでいいとして。レイティア嬢はこれからどうするつもりで逃走を図ったんだ?何か目的があったのか?」
「俺も詳しくは聞いてないですが…。身の安全を守る為に一時王国を脱出したいと言っていました」
「それはそうだな。王国にいる間は気が休まらないだろうしなぁ。脱出するなら少人数で深夜に出発か、それとも大人数で囲って…」
「あとは俺の魔法を使いますか」
「あぁ、いつものか?そうだな、それは必要かもしれん。目立つ要素は消しておかないとな」
カインが隊にいる間、偽っていることが二つあった。一つは先に述べた身分だ。皇族とは言わず、偽名を使い一般的な貴族ということにしてある。そしてもう一つは、見た目を偽っていた。カインが独自に開発した変化の魔法で、実は瞳の色を変えていた。
カインの本来の姿では黒髪金目で、クレイやその他の兄弟と同じ色をしている。しかし、ステイトス帝国で金目は非常に強い魔力を持つものとされ、滅多にお目にかかれない希少な瞳の色だった。むしろ金目イコール皇族と思われる程特殊な瞳なのだ。
ステイトス帝国民であれば、黒髪金目を見れば皇族かそれに程近い高位貴族だと分かってしまうだろう。カインはそれを避ける為に、独自の魔法で常に金目を黒く変えているのだった。
第四とはいえカインも皇子だ。金目を見れば女性はすり寄ってきた。ならばと瞳を黒くしても、美しいと顔だけを見て一方的に好意を寄せられた。
カインは結局平穏な騎士団生活を守るため、黒髪黒目、偽名、更には念には念を入れて目とその整った顔立ちを隠す様に前髪も長く伸ばす様になったのだ。
皇族であることが嫌な訳ではない。自分自身の努力で手に入れたりしていない、生まれついてのものだけでしか評価されていないようで少し…悲しかったのだ。




