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報告

 


 宿屋に入ると、そのまま2階のトマスの部屋へ向かう。ここまで来て遂に気持ちが隠しきれずに、カインが早足になっている。そしてトマスの部屋の前に着き、ドアをノックした。



「カイン・ファーガス、戻りました!」

「おう!入れ!」



 トマスも待っていたようで、即応されカインはサッと中に入る。見ると、トマスは執務机で真面目に仕事をこなしていた。だが、即応する位にはカインの帰りを待ちわびていたのだろう。部下を心配してくれる、ありがたい上司だ。



「それでどうだった?上手いこといきそうか?」



 中へ入るなり、トマスが声を掛ける。カインも早く報告したいと思っていたが、トマスも同じくらい待ち遠しかったのだろうか。カインは柔らかい笑顔で答える。



「隊長、ありがとうございました!団長がレイティア嬢の保護を認めて下さいました!」

「おぉ、それは良かった!何よりの結果じゃないか!しかし、どんな大義名分でそうなったんだ?」

「大義名分て…団長が俺の私情で決めるはずないじゃないですか」

「そうかぁ?案外優しいとこあるからな」



 トマスは、クレイとカインが兄弟だと知っている数少ない人物だ。当然、クレイの兄弟思いの姿も知っているのである。



「団長のそういう部分は否定しませんが…。まさか隊の任務にまで持ち込みませんよ。国にとっての利益を考えた上でですよ」

「まぁ、それはそうだがな。それでレイティア嬢を保護して発生する利益とは?」

「団長はうちの部隊の案件とレイティア嬢の件に、何らかの関係があるのではと考えておいでです」



 トマスも納得いったという表情で頷く。



「そう言われると、確かにありそうな事だな。別々の場所で急激な変化が起きて、時期が被りすぎてる」

「そしてレイティア嬢を保護する代わりに、ゴードリック公爵家に調査の協力を要請するようです。勿論、どちらも内密にですが」

「そうか。公爵家の協力が得られれば、調査はグッと楽になりそうだな」

「団長の慧眼と、判断の鋭さは流石ですね。あちらの王太子とは関わる価値が無いと判断したようです」



 カインがニヤリと笑って、トマスもあわせて苦笑した。



「まぁなぁ。レイティア嬢の一件だけでも、そう判断するには十分だろう?…そういやレイティア嬢の保護は、具体的にはどうなるんだ?」

「内密に匿って、俺が護衛に付くよう指示を受けました。詳細はまだ伺ってませんが、つまりは第三部隊の管轄として動くようになるんだと思います」

「そうか、お前が護衛に…レイティア嬢の身の安全は完全に確保されるな」



 カインは副隊長になるほどの実力の持ち主だ。滅多なことではやられはしまいが、過信しないように気を付けようとカインは思った。



「そんなことは言い切れませんが、全力を尽くします。ただ、俺がやっていた諜報活動に手が回らなくなるので、フォローはお願いします」

「カインが抜けるのは痛いが、皆でやれば穴は埋められるだろう」

「申し訳無いです。昨日も諜報活動は出来てなかったし…」

「まぁ、仕方ないだろ。団長の指示で護衛任務に付くんだから。俺はそれでも部隊が回るようにするのが仕事なんだ、気にすんな」



 トマスの心遣いには、毎度助けられるカインであった。騎士団の部隊長としては優しすぎる気がするが、訓練時には鬼のような厳しさでも知られている。



 そもそも訓練を乗り越えられないようでは、任務はこなせない。任務をこなせないということは、その人間の生死に関わる場合もあるのだから。帝国騎士団、その中の第三部隊では更に危険度が高い。



 第一部隊は近衛騎士。第二部隊は首都近郊の治安や護衛を担当。第三部隊は護衛その他。騎士団内部では、圧倒的に第一部隊所属の希望が多い。王城内で貴人を守り称賛されるのは、やはり憧れの仕事なのだろう。



 逆に第三部隊は人気がない。護衛任務のメインは第二部隊で、第三部隊は余りやおまけといった見方すらされる。



 だが入隊し任務を赴くようになれば分かるが、実際は最精鋭が集う部隊なのだ。表向きは護衛や雑務が仕事だが、実際には諜報活動や潜入捜査、はたまた戦場での特殊工作など多岐に渡るのだ。



 そのどれもが高難易度かつ口外無用の任務になる為、どれだけ活躍しても部隊の外には伝わらない。勿論団長以下部隊長などは、実際の隊の運用について理解している。だが重要任務を担っている事が外に漏れてしまえば、そこから切り崩される恐れがある。なので、表向きはおまけの第三部隊と甘んじて評されているのだった。

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