戻ろう
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思わぬ展開だったが、兄であるクレイの知略によりレイティアの事も任務も新たな局面を迎えそうだ。レイティアをカイン自身が護衛出来ることといい、最短時間で最大の結果をもぎ取れたと言えるだろう。
―本当に良かった…。これでレイティア嬢も安心してくれるだろうあとは早く宿屋に戻らなければ―
まだ若干不満げな兄をチラリと見る。もういい歳なのに、今でも仲良くしてくれることは嬉しくもある。しかし、仕事などで急ぎの時は対応に困るのだ。それが正に今なのだが。
「兄上、俺は至急第三部隊に戻ります。本日はありがとうございました」
「ああ、わかったよ。礼を言われる程の事はなにもしてないけどね、トマスにはよろしく伝えて。あと、この件が落ち着いたら皆でお茶会しようね」
「…検討致します」
「そこは了解しましただろう?」
クレイがニコリと微笑む。
今まで兄妹が仲良く過ごせていたのは、第一皇子のクレイがそうなるよう幼い頃から心掛けてくれていたからだ。第一皇妃の最初の男児で、最も権力も発言権もあるクレイが弟妹達が不利益を被ることの無いよう気を配ってくれていた。
その結果、ステイトス帝国の皇室は異母兄弟とは思えない仲の良さで。皇帝と全ての皇妃、そして子供たちが揃って食事をするのが通例となる程だった。それらも全てクレイのお陰だとカインは思っている。
しかし皆が成長した今となっては、兄妹勢揃いのお茶会の開催なんて困難極まりない。やればもちろん気恥ずかしくも楽しくなるだろうが、カインに開催の指示が出されるのは面倒だ。軽く濁してこの場を去ることにする。
「それでは失礼致します」
「またね、カイン」
ペコリと軽く頭を下げ、部屋を出る。入る時には騎士として礼儀正しく入ったのに、帰りには家族としてあっさりとした対応になってしまった。カインとしては、こういった場面を誰かに見られたりしないよう気を付けているのだが。クレイのお陰で、怪しいものだ。
何はさておき、レイティアの件での対応が決まりカインは心底安堵した。任務の許す範囲ではあるが、レイティアを自分で護ってあげることが出来る。まずは急ぎトマスの元へ戻り、今後の護衛の方針などを固めなくてはならない。
カインはまたもジリジリと焦ってくるが、先程までとは心持ちがまるで違う。今のカインは嬉しい報告を持ち帰っているのだ。待っている人に早く伝えたい、安心してもらいたい、そんな気持ちが大きかった。
部屋を退出して、そこで待っていた兄の側近達に頭を下げゲストハウスを出る。気持ちは急いているが、まさか王宮内を走る訳にも行かずいつも通りの速さで歩く。レイティアを匿うと決まった以上、僅かでも疑われる訳にはいかないのだ。
王宮内には今回の件の司令塔であるミハイルがいるのだから、ここが一番の危険地帯であろう。しかし、司令塔と言うにもお粗末な顛末になっているが…。などと考えていると、カインは始めの入場門に着いていた。
門番に、頼んでおいた黒馬を連れてきてもらい、王宮をあとにする。ここまで来てやっと一息つける気がするが、油断は禁物だ。焦る気持ちを醸し出しては疑われては、今までの時間が無駄になってしまう。努めて冷静に、ゆっくりと馬を歩み出させる。
少しして遂に第三部隊の滞在する宿屋が見えてきた。実際の時間にすればほんの僅かだったのだろうが、カインにとってはとても長く感じた。
―やっと戻ってこれた!これで状況を打破出来る!―
宿屋の入り口の立番に、馬を預け形式的な挨拶をする。サッと通してもらい、またも真っ直ぐにトマスの部屋へ向かうカインであった。




