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実際のところ

 


 クレイ皇子に報告することになったが、カインはやはり不安だった。もうじき皇太子に任命されると評判の切れ者皇子に、レイティアを助けるられるよう説明しなければならないのだ。



「それで、複雑っていうのはどの程度なんだ?」

「王国の内政干渉になる恐れがあるかもしれません」

「…ふぅん。お前たち…」



 クレイ皇子がそう言って部屋に居た側近や事務官に目配せすると、皆部屋の外へと下がっていった。



「これでいいかな?」

「ありがとうございます」

「盗聴防止の魔法はカインに任せてもいいかな?」

「はい。少々お待ちください」



 他国に滞在しているのだから、今も何らかの対策は取られているのだろう。だが万が一の為に、ここでもカインが盗聴防止の魔法を展開する。



「ありがとう。では、話を聞こうじゃないか」

「はい。昨夜の任務中に不測の事態に遭遇してしまいまして…」

「カインが単独で調査してるのは、あの件だろう?調査対象に気付かれたのか?」

「いえ、そういった内容の事案ともまた違いまして…」

「なんだかカインにしては、はっきりしない物言いじゃないか?私にはさっぱり伝わってないんだが」



 カインもそれは自覚していたが、どう伝えたらいいのかまだ迷っていたのだ。聞く側が要領を得ないのも当たり前と言える。だがクレイ皇子に早く判断をして貰えば、それだけレイティアの不安な時間も減るということだ。覚悟を決めて発言する。



「実は昨夜の任務中にとある令嬢に衝突されまして、結果的にその令嬢を助けてしまいました」

「ほぉ、令嬢を助けおこしたので緊急報告すると?」



 クレイ皇子が面白そうにニヤリと笑う。話の大まかな流れだけ聞けば、少しは笑えるのかもしれない。だが、詳しく聞けば笑いなど起こるはずもないだろうとカインは思った。



「はい。私が助けたのは、レイティア・ゴードリック公爵令嬢でした。本人によると、昨夜の夜会まではミハイル王太子殿下の婚約者だったとか」



 カインは努めて冷静に伝えたが、その瞬間にクレイ皇子の顔色がサッと変わった。そこまで表情に出た訳ではないが、常日頃冷静な皇子としてはかなり動揺していると言ってもいいのかもしれない。人払いをし盗聴防止の魔法も掛けているが、チラリと周囲を確認した上で更に小声でカインに問い掛けてきた。



「本当に公爵令嬢だったのか?こちらでも昨夜のミハイル殿の話はある程度掴んでいるが、令嬢の方までは掴みきれなかったんだ。それを一体何故カインが助けることに?」

「情報統制されているらしいと聞いていたのですが、流石殿下ですね。そして令嬢を助けたのは、本当に成り行きとしかいいようが無いです」

「はぁ…。一体どんな成り行きだったと言うんだい?確かに複雑で、おまけに厄介な案件じゃないか。詳細を報告してくれ」



 ガッカリし始めたクレイ皇子に、トマスの時と同様にまた一からレイティアと遭遇して助け、確保し保護した事を説明する。そうして話を聞くうちに、クレイ皇子の眉間にはみるみると皺が寄っていく。カインもそんな皇子の変化に気付いて内心焦っていたが、表面上は努めて冷静を装う。



「…全くなんて厄介事なんだ。お前、こんな事に首を突っ込むタイプじゃないよね?」

「殿下には申し訳無いとは思いますが、俺も進んで首を突っ込んだ訳では…」



 皇子に詰問されるうちに、カインの言葉が無意識に崩れてきた。



「それにしても令嬢からぶつかってきた訳だろ?それは何か意図があったんじゃないのかい?」

「それは無いと思います。その時俺は隠遁の魔法を使ってたので、本当に偶然でしかあり得ません」

「まぁ、カインの魔法の実力は疑うべくもないから、そう言うならそうなのか。では、それはいい。成り行きで救ったのも目をつぶろう。だがその後に匿うのは、どう考えても行き過ぎだろう?」



 改めて問われると、反論出来ない。カインは、自分の任務にも支障をきたしかねない事を独断でしてしまったのだ。だが、このまま黙っていてはレイティアを助けられない。



「…確かにそうかもしれません。言い訳になりますが、暴漢から助けたあと置き去りにしていたら、追っ手に連れ去られるか別の暴漢に襲われたいたでしょう。一度助けたなら無事でいるのは見届けたかったし、その時点では俺には令嬢の身分は分からなかった…」



 カインの本心からの言葉だった。

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