正式には
トマスとの面会を終えて、カインは一度自分の部屋に戻る。第三部隊副隊長としてとってある部屋だ。平隊員であれば相部屋が普通だが、カインは隊長程とはいかなくてもまぁまぁの広さの1人部屋である。
部屋で仮眠を取れたら最高だったが、そんな時間があるはずもない。今まで着ていた諜報活動用の服とマントを脱ぎ、帝国騎士団の正式な騎士服に着替える。
先程までは長い前髪とマントで整った顔立ちを隠していた。だがマントが無くなり上等な騎士服に着替えてみれば、前髪はあっても誰もが振り返る麗しの騎士の完成だった。
いざ団長にご報告の運びとなったが、第一皇子が騎士団のその他大勢と同じ宿屋に泊まっている訳もなく。王宮内のゲストハウスに、貴賓客として宿泊しているのであった。なのでカインも王宮に向かわねばならず、その為に宿屋の前には馬が用意されていた。
あっという間に身支度を整えて、用意されていた黒馬に跨がる。宿屋から王宮まではたいした距離は無いので、馬で向かえば僅かな時間で着く。入場門で門番に馬を頼み、用件を伝えると案内のものがやってきた。
カインも護衛任務でゲストハウスに来てはいたのだが、他国のものが好き勝手歩き回る訳に行かないので案内に付いていった。
ゲストハウスに着くまでに、色々な国の男女とすれ違った。式典の招待客などで、今は人が多い時なのだろう。そしてカインはすれ違う女性達に、幾度となく露骨な熱い視線を送られた。
すれ違った女性には身分の高いものも多くいたので、案内役の男性は驚いた。しかし、当のカインは全く意に介することなく黙々と歩みを進めたのだった。
そうして無事ゲストハウス入り口に着き、案内役は去っていった。王宮内のとはいえ、入り口にはやはり立番の騎士がいるのでカインは声を掛けた。
「カイン・ファーガスだ。第一皇子殿下に拝謁したい」
「お疲れ様です、副隊長殿。拝謁したい旨、伺っておりますので少々お待ちください」
立番の1人がハウス内に声を掛けに行き、返事を貰い戻ってくる。
「今なら時間が取れるそうです。中へお入り下さい」
「ありがとう。では失礼する。」
―拝謁の件、隊長が前もって伝えてくれたんだな。気遣いがありがたいよ…―
ゲストハウスに入ると、立派な扉の前にまたもや騎士が立っている。流石に第一皇子の周囲ともなると目に見えて警備が厳しくなる。
「カイン・ファーガスです。第一皇子殿下に拝謁いたします」
「よろしい。入りたまえ」
扉の向こうから声がして、それと共に騎士達が扉を開けてくれる。カインがそのまま中に進んでいくと、広々とした部屋に宿屋とは数段格が違うだろう家具や調度品が置いてある。そして無駄に大きい執務机には、この部屋の何よりも気品とオーラに溢れる第一皇子殿下が座っていた。
「改めて、帝国騎士団第三部隊副隊長カイン・ファーガスがクレイ第一皇子殿下に拝謁いたします」
カインが騎士の礼を執ったのを見て、軽く頷く。
「トマスから大至急と謁見を申し入れられた。何かあったらしいが、詳細までは聞いていない。トマスが来るものだと思っていたのだが、カインが来たんだな」
クレイ皇子はなにやら思案顔だ。
「伝令を出したのはトマスですが、今回の件の当事者が私なので直接報告に行くよう指示されました」
「当事者なのか?カインは常に優秀だと思っているんだが、今回はどんな案件なんだ?」
「非常に複雑で難しい案件だと思われます。トマスでは判断出来かねると、クレイ皇子殿下へご報告に来た次第です」
こうしてカインは遂に、所属の頂点にいるクレイ皇子殿下の元にレイティアの案件を持ち込んだのだった。




