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 カインから更に詳細な説明を受けて、トマスは溜め息をつく。はっきり言って、トマスの権限で判断出来る範囲を超えているのである。大事な仲間の為に力を尽くしてやりたいが…。



「レイティア嬢の置かれている状況は理解したよ。王太子殿の行動にもかなり疑問があるな。罪人にしなくても、婚約破棄するだけでよかったと思うんだが」

「俺もそう思います。どんな思惑があったんでしょうか」

「王太子殿の独断らしいが、とりあえず昨夜の夜会での話は伏せられてるな。国外からの招待客には伝わらないようにしてるらしい。まぁ、隠せるもんでもないと思うが」



 全ての元凶は王太子ということなのか。新しい女に惚れ込んでしまってここまでの大事件を起こしたとすれば、周囲にも止める責任はあるとカインは思う。婚約破棄にしても式典からもっと時期をずらすか、式典を取り止めるか、いくらでもやりようがあっただろうに。



 王国内部を調査する側の人間だが、それで大丈夫だと思ったのかと突っ込みたくなる気分だ。



「隠されているとは言っても、夜会で人も多いし盛大に追っ手も掛けちゃってるからなぁ。少し調べれば色々分かることもあるだろう」

「じゃあ俺が行きますよ」

「あのなぁ…」



 トマスが溜め息をついて、カインの方を見る。



「何でも1人で抱え込もうとするのはやめろ。そりゃ、お前がやれば速いし確実だろうがな?お前が今すべきなのは、レイティア嬢の身の安全を確保して迎えに行くことだろうが」

「…っ、そうでした。すいません…」

「調べるのは他のヤツらでやっておくよ」



 ―そうだった。俺はレイティア嬢の所に出来るだけ早く戻らないと!彼女が安心して旅立てるようにしてやりたいが…―



 カインは拳を軽く握り、改めて決意したのだった。そして、それを見ていたトマスが更に告げる。



「本来なら俺達の任務外だが、今回の件と元々の調査案件が繋がってないとも言えんだろう。だから調べる事はいいんだよ、けどな…」

「そう言われるとそうですね…。十分あり得る話だと思います」

「調べるのは可能だが、俺にはレイティア嬢を匿うことは出来ない。心情や状況では、もちろん助けたいと思うが俺の権限を超えた話になっちまうだろ?」

「……」



 カインは押し黙った。本当は気付いていたのだ。実際には濡れ衣でも、他国の犯罪者をトマスの一存で連れ出したりするのは難しいと。それでもと、一縷の望みを掛けてトマスに打ち明けた。



「だが俺には無理でも、出来るかもしれない人はいるだろ?カイン」

「…はい」

「お前、団長に直接報告してこい。直談判すればどうにかなるかもしれんだろ?」



 トマスは先程と同じようにまたニカッと笑ってカインを見る。カインはまだ浮かない表情のままだが…



「いいか?こういう時はあれこれ考えずに、使えるものは使えばいいんだよ!そもそも、お前だってそう思ってこの話を持ち込んだんだろ?」

「そう言われると申し訳無いんですが…」

「だから、いいんだって。気にすんな!まぁ団長に報告するのも気は進まんだろうがな。だが、お前から直接報告した方が伝わる部分もあるだろう」



 団長というのは、ステイトス帝国騎士団の全てを統括する人物で。実はその人物は、帝国の第一皇子殿下なのであった。



「…分かりました。俺が行ってきます」

「あぁ、行ってこい。その間に調べものは終わらせとくから、心配するな。…それと相手が誰でも、使えるときは使うんだぞ!」



 その団長相手に使えと言うのもどうかと思うが、トマスからの激励なのは分かっていた。なのでカインも笑顔で応えた。



「分かりました!隊長、色々ありがとうございます。俺、報告に行ってきます」

「おう、気を付けて行ってこい」



 そうして隊長との面会を終えて、カインは部屋を後にしたのであった。





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