事の大きさ
度々すみません。
一部加筆修正しました。
カインは洗いざらい、トマスに報告した。任務中にレイティアと遭遇し、流れで助けることになり。何故かそのまま確保し、現在は保護。そしてレイティアの身分がなんと王太子の婚約者である。本人曰く婚約破棄されて、只の公爵令嬢らしいが。いや、公爵令嬢だとしてもなかなかの問題だ。
トマスにぶちまけると、カインは肩の荷が少し軽くなった気分だった。部屋の奥に用意してあったお茶を持ってきて、応接用のソファに勝手に座る。そして温かいお茶を飲むと、昨夜の騒動からやっと一息つけたのだった。
それをトマスがギロリと睨む。こちらは一息つくどころではない。想像を越える大問題を持ち込まれたのだ。
「カイン、お前一体何してくれてるんだ!王太子の婚約者を連れ去るなんて、両国間で大問題になるぞ!」
「…ほんとすいません。自分でも何でこうなったか、よくわかってないんですよ。でも、トマス隊長だって俺の立場だったらきっと同じことしてたはずです。それと、もう婚約者じゃないらしいです」
「何で任務に行って人助けしてるんだよ!婚約者じゃなくたって、貴族令嬢連れ去ってたらおんなじようなもんだろ!」
トマスはどんどん興奮して声が大きくなる。カインは申し訳無いと思いながら、そんなトマスを見て少し冷静になる。
―そりゃ、こんな案件持ち込んだらブチギレたくもなるよな。俺の上司ってだけで巻き込まれるんだから―
改めて自分のしでかした事の大きさを噛み締めながら、トマスの興奮が収まるのを待つ。
「貴族令嬢って言うか、公爵令嬢ですね」
「おまっ…!さらっと言うな!普通の貴族より問題だろうが!なんで助けちまったんだよ」
トマスも興奮している最中の言葉だ、本気ではないのはわかっている。だが、その言葉に今度はカインが反応してしまう。
「助けるなって、そんなこと出来ませんでしたよ!そりゃ任務中なのはわかってましたけど。騎士として、人間として無視できませんでした!」
「いや、助けるなは言いすぎだったな。すまん」
「俺が独断でやってしまった事なんで、処罰は受けます」
「そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。悪い。処罰はさておき、お互い冷静になって対応を考えないとな!」
トマスは困ったような顔でカインを見る。カインも少し落ち着き、同じような顔になる。
「俺がやってしまった事なんですけど、これからどうするのが一番良いのか一緒に考えて貰えると助かります」
普通の上司であればカインを処罰し、レイティアを王国側に引き渡しそれで幕引きを図るだろう。帝国としては直接関わっていません、個人の仕業です、という対応だ。しかしトマスは隊員の事情などを慮ってくれる、情け深い上司として知られている。
―だからこそこの俺の上司をやってる訳なんだよな―
心の中でトマスの性格を再確認し、レイティアの手助けを出来るか考える。上手く行けばいいのだが、果たしてどうなるものか。
「カインが助けたのは、レイティア・ゴードリック嬢と言ったな。名前だけで言えば王太子の婚約者に間違いないだろうが、何かしら身分を証明出来るものはあったか?」
「特には無かったです。ただ、身に付けているものは普通の貴族では手の届かないような高級品だったので。公爵令嬢と言われて違和感はありませんでした」
カインはレイティアの話を信用しているが、会ったことの無いトマスからすれば確認は必須だ。
「それで、そのレイティア嬢は昨夜追っ手を掛けられていて、それを助けたんだったな」
「…追っ手を掛けられてた所でゴロツキに捕まり掛けていたので、ゴロツキはのしました。なんで、王国側の追っ手に手は出してません!」
「得意気に言うな。王国側に見られてる時点で対して変わらんぞ!」
トマスは苦笑する。
「そうですね…、見られはしました。ただいつもの格好だったので、はっきりとした人相とかは見られていないと思います」
「そうか。帝国の人間と知られなかったのは、まだ救いがあるな」
「そうだといいんですが…」
「それにしてもレイティア嬢は突然婚約破棄されて、捕縛されるほどの悪事を働いたのか?昨夜の出来事は、式典の招待客には知らせないようになっているみたいだが」
カインからハハハッと乾いた笑いが出る。きっとレイティアが、カインに説明した時と同じような表情になっていることだろう。トマスに更に詳しく説明するカインであった。




