振り返ると
本日2話更新となりました。
未読の方は前話からご覧頂ければと思います。
明日も更新出来るよう頑張ります!
「宰相はなんでレイティアにそんなに魔力測定を受けさせたがるんですか!父上」
「理由はある。ある意味政治的なものだよ。宰相からであれば無視も出来ようが、恐れ多くも国王を経由しての事だからね。レイティアには辛い事だが、また魔力測定をして貰うことになるだろう」
レイティアの母親がサッと顔色を変える。常日頃は穏やかな人なのだが、家族の問題ではそうもいかないようだ。
「あなた!レイティアはもう二回も測定したし、頻繁に測定したからってそうそう変わるものではないでしょう?どうにかならないの?」
「フェリシア、私もどうにかしてあげたいと思うよ。だが国王陛下からであれば、それはもう命令なんだ。宰相だったら、アイツごときなんて事はないんだがな…」
父親も思案顔だ。なぜ魔力測定を受けるだけで、こんなに紛糾しているのか。魔力測定自体が辛いとか苦しいとかそういった理由ではない。神殿の神官が相手に触れて魔力を軽く流し、それに対する反応で魔力の大小、または属性なども調べることが出来る仕組みだ。レイティアの身体に対する負担はほとんどない。
だがそれなのに、ここまで騒ぎ立てる理由とは一体何なのか。レイティアはフーッと溜め息を一つつく。
「お兄様、お母様。大丈夫です。私、魔力測定を受けます」
「レイティア、そんな無理をしなくてもいいのよ?」
「そうだよ!…その、色々あったりするだろう?」
「私だって、伊達に妃教育を受けている訳では無いのよ。政治的思惑くらい分かってるわ。だからお父様も、別に気にしないでね。」
父親は娘の発言に驚いたようだった。自分が思うよりも大人になっていたと気付いたのかもしれない。
「大丈夫か、レイティア?すまないな。宰相が、全てを牛耳ろうと調子にのっているんだ。侯爵家ごときが勘違いを。後で必ずやり返してやるからな」
「フフッ、お父様ったら。いいんです。宰相様がご自分の娘を、王太子殿下の婚約者に出来なかった事への嫌がらせだわ。いつもの事ね。私は平気よ」
「可愛いレイティアにそんなことするなんて、僕は!」
「お兄様、いいのよ。ちょっと面倒くさいなってくらいだもの。私に魔力さえあれば良かったんだけど」
そう、レイティアには魔力が無かった。貴族でも魔力が無いものもざらにいるのだが、特権階級ゆえの差別意識といったものか魔力が無ければ貴族に値しないと言い張る輩もいたりするのだ。ましてやレイティアは、王太子の婚約者。国を代表する女性になるのに魔力無しでは、などと差別意識の強いもの達には陰で言われている。
そもそも魔力の有無は、その人間の地位や階級になんら関係は無い。だが差別意識のあるもの達は、高貴な血筋からこそ魔力は生まれるという考え方らしい。だからこそ、貴族なのに魔力が無いのはあり得ないという。
だが、魔力持ちの発現条件は未だに解明していないが、庶民にも魔力持ちは生まれる。完全なる思い込みで個人の思想でしかないのだが、その個人が地位が高いほど多いというのが厄介なところであった。
それで今回はその典型である宰相から、一種の嫌がらせとして魔力測定を受けろと言われたのだ。レイティアに魔力が無いのを分かった上で、暗に将来の王太子妃に相応しくないと言っているのだ。
魔力が無ければ王太子妃や王妃になれないという法はない。だからレイティアになんら問題は無いのだが、こうして毎度チクチクと嫌がらせを受けるのが面倒なのだった。
「レイティア。魔力なんて無くとも、お前はこのゴードリック家の唯一の娘だし、王太子の婚約者だ。それは変わる事の無い事実だからね。何も気にしなくていいんだよ」
「私は全然気にしてないのよ。本当に。ただ周りにいる人が気にするだけでね」
レイティアはもう一度溜め息をつく。
「…レイティア。貴方はとてもよくやっているわ。妃教育を初めてわずか4年とは思えないって先生方も言っていたわ。歴代の王太子妃と比べても最も優秀だって」
「そんなことないと思うわ、お母様」
「そうかしら?でもね、覚えておいて。貴方が王太子の婚約者じゃなくたって私は構わないの。貴方はただそのままで、可愛い私の娘なんだから。嫌になったら辞めたっていいのよ」
「お母様ったら…。ありがとう。学ぶことがあるのはとても楽しいの。今はまだ大丈夫」
レイティアはそう言って立ち上がる。
「少し出てきます」
「レイティア、僕も…!」
兄の言葉も聞かず、レイティアは小走りで部屋を出ていってしまった。公爵令嬢のマナーとしてはどうかと思うが、家族は何も言わない。ゴードリック家では、よくある事のようである。
「…あの子はいくつになっても変わらないわね。嫌な事があると走っていってしまうんだわ」
「後で皆で探しましょう、母上」
困ったような顔で兄は言うのだった。




