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これからに備えて

 


 カインと話をして、レイティアの事情をほぼ打ち明けてしまった。



 ―隣国の騎士であるカイン様に、こんなに話してよかったのかしら…。かえって巻き込んでしまったわ―



「カイン様。ただ道でぶつかっただけの人間として、私の事など気にせずお仕事にお戻りになって下さい」

「それが出来れば良かったがな。こんだけ関わって、はい、さよならってのは俺には無理だ。すまないが俺の我が儘だと思って、許してくれないか?」

「…カイン様がそう仰るなら。だけど、本当に申し訳ありません。そしてありがとうございます」



 レイティアにとっては当座の隠れ場所にいられて、ありがたいことこの上無いがカインの仕事に影響は無いのかそれが心配だった。…むしろ影響が無い事などあり得ないのだが。



「とりあえず俺の仕事の都合があるから一度ここを出るが、レイティア嬢は俺が戻るまでここで休んでいてくれ」

「お言葉に甘えてしまって本当にいいのですか?元凶である私が休んで、カイン様が出るなんて」

「いいんだよ。これからまた逃げるんだろ?それならしっかり休んで体力を戻さないとな」



 カインはニコリと笑った。レイティアにどれほど親切にしてくれるのか、感謝しかない。これから逃げ切るつもりでいるが、難しいときはやはりカインに捕らえて貰うのが一番の恩返しになるのかもしれない。



「俺はこれから仕事関係の人間に会ってくる。そこでレイティア嬢に関する情報を仕入れてくるから、その後で改めて今後の方向性を決めよう」

「わかりました。カイン様の指示に従います」



 とりあえず、今すぐレイティアが捕まる事態は防げそうだ。カインも自分がなぜこんなに親身になっているのかよく分かっていないが、レイティアが辛くならなければいいなと思っていた。



「この部屋にはドアを外から開けられない魔法をかけていく。だが中からは開くから、俺が戻ってきたら開けてくれ。そして緊急時には避難してくれ」

「はい、わかりました」

「軽食は宿に頼んであるから今持ってくる。それと、治癒はしたが浄化の魔法で少し汚れを落としてやるよ」



 カインが何くれとなく世話をやきはじめて、レイティアは驚いてしまった。普通、騎士などは誇り高く女性の世話など嫌がるのではないだろうか。しかもカインはかなりの実力を伴う騎士なのだ、きめ細やかな心遣いがかえって申し訳無い。



「そこまでしていただかなくても、ただ寝かせていただければ充分です」

「そういう訳にもいかないと思うんだが…。そのレイティア嬢、自分を見てもらってもいいか?」



 カインが少し困った顔で言うので、レイティアはふと自分の事をこてん、と首を傾げ考える。



 ―昨日夜会のドレスで逃げてきたんだったわ!しかもボロボロにしてしまったし。走ったり転んだり色々あったから、髪も身体も汗や砂でどろどろじゃない!―



 貴族令嬢にあるまじき姿で淑女ぶっていた自分が急に恥ずかしくなり、両手で顔を覆う。今更と言えばそうなのだが、気付いてしまえば恥ずかしくて仕方ない。しかもそんな姿を見てるのが稀に見る美男子のカインなのだから、よりつらい。



「す、すいません!やっぱり浄化魔法をお願いしてもいいですか?」

「あー…すまないな。ここに連れてきた時点で浄化しておけば良かったんだが、あまり色々魔法をかけて眠りを邪魔しても悪いと思ってな。治癒魔法だけにしてたんだ」

「い、いえ、それはいいのですが、どうぞお願いします」

「ああ、分かった」



 カインが軽く右手を上げる。呪文は特に無いようだが、カインの目にいつもより輝きが増している気がする。そしてレイティアの周りがわずかに光ったかと思えば、ほんのりと暖かいような感覚になって。そうしてレイティアへの浄化魔法は終わったのだった。



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