僕たちとサブカル
僕たちとサブカル
サマエル
1章 妹との日常生活
ピリリリ、ピリリリリ。
目覚ましの音に気づいて僕は目を覚ました。僕の名前は神谷純。いたって普通の18歳の高校3年生だ。
勉強はそこそこ、顔立ちは普通、背は160ほど、趣味はゲームと読書とアニソンを聴くぐらいのどこにでもいる普通の男子学生。
そんな普通の僕が着替えをして、朝食の準備をし、弁当を用意する。
「うん。我ながら会心の出来!」
そう言ってニヤッとしたが、あることに気づいた。
「あ、いっけねー。愛菜のやつ起きているかな?」
そうして、僕が一つだけ他の人と違うことがあった。僕は彼女の部屋に行き彼女を起こしに行く。
「愛菜―、起きてるかー?」
その少女はベッドの上ですくすくと寝ていた。
この少女の名前は神谷愛菜。僕の妹で、最近小学生にはいたばかりの少女である。うちの両親はブラック企業で働いていて、何かと忙しく、僕が彼女の面倒を見ているようになったのだ。
ちなみに僕の子供の時はおばあちゃんが面倒を見てくれて、家事もおばあちゃんから伝授させてもらった。まあ、その時はこういう場面で役に立つとは思わなかったけど。
「愛菜―」
ゆさゆさと体を揺らし(ゆらし)起こそうとするが、その妹愛溢れる(あふれる)兄に妹の愛菜は。
「んっ」
ごつん。
拳を頭に食らわせた。
プチっ。
「愛菜―。お前、いい度胸してんじゃねーかー。そういうお前には、こうだ!」
バッと布団を引き剥がす。愛菜は最初は横になっていたものの、すぐにくしゃみをした。
「なーに、すっごく寒いよ」
愛菜は起きた。なんせ、春とはいえ、まだ朝は寒い。そんな愛菜に僕はニッコリ微笑んでいう。
「おはよう」
それを見た愛菜はパーっと目を輝かす。
「うん、おはよう。お兄ちゃん」
「一人で着替えれるか?」
「うーんとね、うーんとね・・・・・」
そのまま、ウトウトし始めた妹にため息をついた。
こりゃ着替えを手伝ってやるしかないか。
「よし!お兄ちゃんが着替えを手伝ってやるからな。そのままの状態で。まず、上から脱ごうか」
「うん・・・・・・・」
まず、パジャマの上着を脱がせて、それから下も脱がせて、学校の制服を着させてやった。
そして、制服のボタンを留める。
「うん。完璧。どうだ?愛菜?よくできただろう?」
「うん・・・・・・・」
しかし、まだ我が不詳の妹はこっくりこっくりしていた。やれやれ誰に似たのやら。
「さっさと顔を洗えよ。今日はマナの大好物のパンケーキだ」
「本当!」
その瞬間、大輪の花が咲いたかのような笑顔をパーッと輝かせた。
僕もにこやかに頷いていう。
「おうよ。もちろんだ。だから冷めないうちにさっさと顔を洗ってしゃっきりしろ!」
そう言って、僕は愛菜の背中をばんと叩いた。
「うん!」
愛菜は大急ぎで洗面台へバタバタと降りていく。
「転ぶなよー!」
そう、大声で言ったら、わかってる!とマナの大きな声がした。
やれやれ現金なやっちゃ。
パンケーキを焼き終わるとドタドタとした音が聞こえた。
「お兄ちゃん!私のパンケーキは!」
「早かったな。今できたところだ」
そうして、愛菜にパンケーキを与える。
「ほら、マーガリンとメイプルかけてやるからな、ちょっと待ってろ」
「うん♡」
愛菜はごくごく普通の小学生で、そんなに顔立ちは悪くなく、かと言って目を引くほど可憐というわけでもなかったが、ごくごく普通の小学女子だった。
髪は少し伸びていて、本人は女の子のようになりたいと言っていたが、このお転婆な性格だと、本物のレディーになるにはまだ当分先のようだ。
「お兄ちゃんのは?」
「僕のはもうできている」
僕はエプロンを外して、自分の席に座った。そして、マーガリンとメイプルをかけるが。
「こら」
「ん?」
ガツガツパンケーキを食っている愛菜に僕は注意をした。
「いただきます。の礼をしてから食べなさい」
「はーい」
「口に入れたまま喋らない(しゃべらない)。あと、はいは伸ばさない」
もぐもぐ、ごっくん。
愛菜は口に入れたパンケーキを噛んで(かんで)飲み込んだあと、ニカっと笑って言った。
「はい」
「よろしい」
そして、僕も礼をする。
「いただきます」
そして、俺も朝食を食べることにした。俺が作ったパンケーキは特段美味くなく、まあ、朝食はこんなものか、と思い黙々と食べた。
「ごちそうさま!」
僕がパンケーキを半分食べたところで愛菜は向日葵の笑顔を見せて、最後は食事の礼をした。
(まあ、手を合わせてないけど、まあいいか)
そして、愛菜はにカット俺に歯並びの良い歯を見せて笑いかけてくる。
俺もそんな愛菜の髪をくしゃくしゃにして言った。
「ちゃんと歯を磨いて(みがいて)おけよ」
「うん!」
そのまま、ハヤテのごとくドタドタと洗面台に向かった。
「だから、家の中を走るな!」
わかったー、という愛菜の大きな声が聞こえた。
やれやれ、今住んでいるのは少しは防音機能がついているマンションとはいえ、そんなに大きな音を立てたら、周りのご近所たちに迷惑だろうが。
そうして、パンケーキを食べ終え、愛菜の分の食器も洗おうとすると、愛菜の椅子の下にパンケーキのクズが落ちているのを発見した。
それを見て苦笑して、雑巾を持ってくる。
ばあちゃん言っていたっけ?子供というのはいつも人に迷惑かけるけど、悪気があってやっっているわけじゃないんだよ。子供は何も知らないんだから、私たちが優しく、丁寧に教えてやればいいんだ、って。全くそうだな。子供ってのはほんと風の子でビュンビュン飛び回ってるけど、本当は誰もが素直でいい子だから、憎めないよな。
そうして、床を綺麗にして、食器と調理用具を片付けた。
「ねえ、まだー?」
「ちょっと待ってろ」
もうランドセルを背負っている愛菜が頬をぷっくり膨らます(ふくらます)。
対する僕は歯磨きをしている最中だ。
「よし、できた」
それに呼応するように愛菜の顔が明るくなった。
「じゃあ、もう行っていい?」
「まだだ。ちゃんと今日やる教科書確認しろ」
「ええ!?大丈夫だよー」
「いいから、念のために確認しとけっての。これは社会人になってからも役に立つ習慣なんだから」
ぷクーとフグが膨らむ(ふくらむ)。
「でも、私、小学生だよ?」
「あと、16年経てば立派な社会人だ。ほら、やっとけ」
めんどくさいなー、と言いながらも、ちゃんとランドセルをチェックする愛菜。
僕もカバンをチェックし今日の担当科目を確認する。
よし、大丈夫だな。
「愛菜。そっちは?」
それにマナはニマーとした笑みを見せた。
「もちろん、ぐー!だよ」
「よしよし」
愛菜の髪をくしゃくしゃにする。愛菜も子猫のように気持ち良さそうにしていた。
「じゃ、行くか」
「うん!」
そのまま、マンションを出て、南小学校の集団登校場所に向かい。そこで他の小学生と保護者と合流した。
「加奈ちゃん!」
愛菜は仲良しの同級生を見つけるともうダッシュした。僕は加奈さんのお母さんと対面する。
「おはようございます」
「おはよう。純君は偉いわね。ちゃんと妹の面倒を見れれるなんて」
「いえいえ、それほどでも。それよりもすみませんね。うちの保護者が来れなくて」
加奈さんのお母さんはにこやかに微笑んだ。
「いーえ、大丈夫よ。それよりも学校頑張ってね」
「はい」
そして、僕は愛菜に言った。
「ちゃんと勉強しろよ」
わかってるー、という返事が来た後に、僕は加奈のお母さんに言った。
「登校。よろしくお願いします」
「はい」
それで別れ、僕は南高等学校に向かった。
僕は学校に登校し、席に座ってから自分の唯一の趣味の本を読み始めた。
しかし、肩に手が置かれる。見るといかにもチャラそうな男子がこちらをニヤニヤとした笑みで見ていた。
「さだ。いつもながら距離が近いって。ゲイに勘違いされるぞ」
こいつの名は蟹沢貞夫、通称さだ。一見遊び人の方のように見えるがれっきとしたオタクだ。僕と同じ趣味のライトノベル系作品ばかり読んでいて、それで僕と中山恭子とともに僕の友人になった。愛称はさだ。しかし、さだは気にもとめずに顔を近寄せた。
「純クーン。おお、我が生涯の親友よ!今日見ている本はなんだ。カバーかけているからワカンねぇ。は!まさか、エ●本!」
「そんなわけあるか!」
しかし、さだは気に求めずに体をくねくねさせる。
「でもー。カバーかけてあるし。エロ本じゃないにしてもかなり際どいライトノベルじゃないの?
みんなは漫画やら、ゲームやら、アニメを見ているのに、ライトノベル読んでいる人はそんなにいなかったから、俺たちはこうやって友達になったのだ。
「アホか。そりゃお前だろうが。これだよ、これ」
俺はカバーを外す。
「なになに、どんな破廉恥な美少女が・・・・・」
そしてさだは固まった。無理もない、この本は。
「なになに、ドストエフスキーの『罪と罰』か」
「ああ、恭子、おはよう」
そう言うと恭子はニッコリ微笑んだ。
「おはよう」
恭子はショートヘアで眼鏡をかけた美少女で、俺とさだと同じくライトノベル仲間。ただ、俺と同じく一般の本も読んでいる。まあ、ほとんど女流作家だが。
「ふーん。純がこう言うの読むのって珍しいね」
「まあな。夏子先生から借りたんだ」
夏子先生というのは俺らの一年の時の担任だった国語の教師。かなりの美人で巨乳の持ち主だし、さだはいつも彼女の胸をガン見している。普通、そうしたら女性の人は引くが夏子先生はかなり豪快な(ごうかいな)性格の持ち主で、それを仕方ないなぁ、この子。というような目でさだを見ている。
ちなみに夏子先生は僕と恭子とも仲が良い。
そう言うと恭子は納得した表情をした。
「ああ、なっちゃん先生ね。なるほど。それでか」
恭子は一見するとクールな印象を与えるが、内実はサバサバとした性格の女子だ。読書好きだから、そうは見えても本当は内向的な面も持っているのではないかと僕は推測しているのだが、しかし、見たところそれは感じられない。
そして、固まったままのさだが目を覚ました。
「あぶねえ、危ねえ。俺は高級なものを見ると幽体離脱する能力を持っているんだ。今回も無事帰ってこれたみたいだな」
キーンコーンカーンコーン。
担任の先生が入ってきた。
「ホームルームだぞ。席に座りなさい」
「はーい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そっちの方がドストエフスキーを読むことよりもすごいと思うぞ、さだ。それよか病院に行けよ。
そして、4時限目の終わり。
キーンコーンカーンコーン。
「ええ、じゃあ、このところは試験に出るのでちゃんと覚えておくように」
はーい、という風船ガムの返事が上がった。
そして、お昼になった。そして、その瞬間がっちり組まれる肩。
「さだ、離せ」
「ちょ!一眼も見ずにそういうのはおかしくね?」
「おかしくない。全人類90億人いようとこんなのしてくるのはお前一人だ」
それに頭垂れるさだ。ボソボソとした小声が聞こえる。
「全人類90億人いてもこんなのをするのは俺一人か。俺ってひとりぼっち?俺ってのけもの?いや、待てよ90億人いてもこんなことをするのは俺だけなら、俺って特別!オンリーワンの存在!そういえばギャルゲーでこういう格言があったぜ。どんな特別な能力でもありきたりよりは救いがある、と。ということは俺って選ばれしもの!まさしくラノベ主人公のうような存在じゃん!やったぜ!そういうことは俺は俺のままでいいじゃん!それなら純ちゃーん!」
そのまま、飛び込んできたさだをひらりとかわして俺はカバンからノイズキャンセラーのヘッドホンとスマホを取り出した。
あと、さだよ、そのギャルゲー最後までプレイしたのか?
恭子が寄ってくる。
「あれ、今日はスマホ提出しなかったの?」
うちの学校はスマホの持ち込みは原則的に禁止だが、結構ゆるい部分がある。持ち物チェックもそれほどなされないようなのだ。でも、僕はいつもスマホを学校に提出しているのだが・・・・・・・・・
「今日はど忘れした」
「あら」
恭子は手を口に持っていく。
「で、今からかけるわ」
「うん。それがいいかも」
「まあ、正確には愛菜を預かってくれている、学童保育の先生かな?ちょっと電話するから」
恭子はすぐ得心した表情をした。
「了解」
プルルルルル、ガチャ。
「はい、こちら南小学校の学童ですけど?」
「あ、俺は神谷純です。神谷愛菜の兄ですけど・・・・」
「ああ、純くん。いつもいつも毎日かけてくれてありがとう?愛菜ちゃんに代わろうか?」
この人は学童保育の先生で渋谷充先生。ぽっちゃり系の中年の気のいいおばちゃんだ。
「いえ、大丈夫です。無事ならいいんです」
「本当にねぇ、偉いねぇ、最近の若者にしては立派だわ」
「いえ、両親が働いているところは相当ブラックだから、娘に何かあっても休ませてもらえらないというか、そういう電話すること自体がタブー視されているから、仕方なく、僕が電話しているんで、偉くはないです」
「ううん。偉いと思うわ。ちゃんとご両親の代わりに世話をするのは立派なことだと思う」
「はい。まあ、一応無事ならいいです。それでは切りますね。一応、うちの学校スマホは禁止なのを特例で許してもらえているので、先生に返しにいきます」
「そう、わかったわ。じゃあ、ちゃんと勉強頑張ってね」
「はい」
そして、電話が切れた。
俺は恭子の方を向いて言う。
「スマホ。金本先生のところに返しに行くわ。またな」
「またー」
「・・・・・・・・・・・・」
まだ、さだは壁に顔面をめり込ませて必死に抜けようと力を込めているが抜けなかった。
と言うか、この状況どう考えても普通死ぬよな。
そんなさだに声を掛ける。
「さだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「昼飯、一緒に食おうぜ」
ズボ。
一瞬で壁から頭を引き離したさだがウィンクをする。
「おう!」
職員室の前に来る。一応ノックして、要件をいう。
「2年の神谷純です。金本先生はいますか?」
その言葉に応じてくれたのは若い女性の声だった。
「神谷くん?まあ、入りなさいよ」
「失礼します」
そのまま、職員室のドアを開けて入った。
「こんにちはです。夏子先生」
「うん。こんにちは?金本先生は今はいないけど?ああ、そのスマホとヘッドホン返しに来てくれたの?」
夏子先生は年上とは思えない人懐こさ(ひとなつこさ)でスマホとヘッドホンを回収した。
夏子先生の本名は園原夏子。髪を茶髪に染めてパーマをかけて切り目の長い目と小さな鼻と薄い唇、の一見気の強そうに見える女性だが、内実は豪胆で底抜けに明るい女性だ。そして、密かに僕が憧れている(あこがれている)女性でもある。
そして、僕はある計画を立てているのだ。
卒業したら自分の思いを彼女に伝えよう。
別に彼女にしたいというわけではなく、一年の頃からから憧れていた(あこがれていた)女性だったから自分の気持ちを率直に伝えるだけ、ただそれだけをするのだ。
俺の一年の時の担任の先生で俺と恭子とはよく気があったから、教師と生徒とはいえ、今でもこうやって休みの時は話す時がよくある。
夏子先生が顎を手首に乗せて聞いてくる。
「どう?元気にやってる?」
「はい。良い友人や先生に恵まれて学校生活は充実しています」
それに夏子先生がガハハと笑う。
「いやー、そう言われると嬉しいわ。なんかお茶飲んでく?」
「いえ、昼にさだと一緒に食事の約束をしているんで、今日は失礼します。ただでさえ、電話で時間使いましたから」
それに夏子先生はうんうん頷いた(うなずいた)。
「じゃあ、次のお昼ご飯は私と恭子ちゃんと一緒に食べましょう」
「いいですよ。それと『罪と罰』の第一巻読みました。また明日言いますね」
それに夏子先生がうんうん頷いた(うなずいた)。
「いいよー。純くんの感想とっても気になるわ」
「はい。その時はよろしく」
「またねー」
先生とは思えない軽さで夏子先生がバイバイする。
「また」
「おーい。さだいるか?」
と、ドアを開けたところによく知っているイケメンの姿を発見した。
「あ、角田さん」
「よ、元気?」
と、角田さんは遊び人のような口調で声をかけてきた。だが、頭は角刈りだが、ワイルド系アイドル並みの容姿を持つ角田さんんはさだのようなダサさは微塵もない。
「まあ、そこそこに」
そして、僕が角田さんの横を通り過ぎようとすると声がかかった。
「違うだろ」
「え?」
角田さんの顔をまじまじ見る。
「お前が俺の移動を邪魔しないというのが普通だろ?」
「はぁ」
よくわからずに、しかし僕は横に引いて角田さんを先に行かせた。
「サンキュ」
角田さんは去って行った。なんなんだろ?あの人。
そして、僕は席に座った。そうすると恭子が何よりも一番に声をかけてくる。
「ねえねえ、純。角田さんとお話ししたの?」
「?いや、そんなに話してはないけど?」
それに恭子がいきり立つ。
「そうなの!?ダメじゃない!お話ししないと!」
「なんでだよ?」
「だって、男同士積もる(つもる)話があるんじゃないの?」
「ねえよ」
しかし、恭子は俺の声が聞こえていないのか、角田さんの方を見ていた。
「ああ、角田さん。かっこいいわぁ」
・・・・・・・・・・・・・・
やれやれ、女ってやつはどうしてこうもイケメンに弱いのかね?
そう嘆息しつつ、俺は自分で作った弁当を取り出した。そして、それを見たさだが目を光らせる。
「お?それはもしかして愛菜ちゃんの手作り弁当かな?」
パンを片手にさだが聞いてきた。
「アホか。自分で作ったんだよ。愛菜は小学1年生だろ?まともな弁当作れるわけないだろ?」
「んだよ。夢がねえな!やっぱり男として憧れるじゃん!美少女が作ってくれる手作り弁当ってやつをさ!」
それに恭子が冷たい視線でさだを見た。
「だから、彼女ができないのよね」
「ぐっ!なぜ、そのことを・・・・・・・・」
「いや、普通誰もがわかることだから」
それにさだは断末魔の血しぶきをあげた。
「グハァ!純まで、ひでえぞ!」
「ところでよ」
あ、立ち直った。
「いまは春だけど、今年の冬の一押しのラノベはあった?」
それに僕らは考え込む。
「私はカラドボルグ、かな?王道展開だけど熱かったわ」
「おお!熱血バトルもの!恭子ってそういうのが好きだもんな」
「まあね。最近では少ないけど、そういうのは必ずチェックしている。純は?」
「俺は名草宗一郎の路上のタンポポかな?」
それに二人して正反対の表情を見せる。
「それな。純に借りて読んでみたけど、あんまり。ラノベって感じがしなかったな」
「そうかしら?私は面白かったけど?変なお色気シーンもなくて、また、王道とは違う少年の心を見ているようで面白かったわよ?」
「まあ、そういう意見もあるかもしれないけど、俺はあんまり・・・・・・・・・」
「そういう、さだはやっぱり、俺TUEEEE系なの?」
それにさだはギクリとした表情をする。
「いや、いや違うぞ!それは去年までの俺だ。今年の俺は違うんだ!」
「どこが?」
一応聞いてみる。
それにさだは仙人の表情をして言った。
「去年までの俺は浅はかだった。何も努力もせずに俺最強を追い続けてきたが今年からは違う!俺は試作という試作を重ね。俺が真に求めているものを発見しようとした。そして、ついに分かったんだ!覚醒したんだよ!」
そういう口上がもう俺TUEEEE系みたいだったけど、それは言わなかった。
「俺が求めていたもの。それは最強の称号ではなく、ありふれた日常。つまり」
「ハーレム系である、と」
「しかも、おっぱいが大きい女の子がたくさん出てくるやつ、と」
それにさだが驚愕の表情をする。
「なぜ、それを!まさか、お前たちエスパーなのか!?」
「2年、さだの友達やれば誰だって分かるよ」
それに首肯する恭子。
「うう、いいじゃんかよ!ハーレムで何が悪い!おっぱい大きくて何が悪い!やっぱり女の子の価値は容姿とおっぱいのデカさだろ!」
「臆面もなくそういうことを言えるお前をある意味尊敬するわ〜」
「まあ、確かに、普通そんなこと思っても言えないよね」
しかし、そんな寛大な心を持っているのは俺たちだけのようで周りの女子はさだを軽蔑した眼差しで見ていた。
しかし、さだはそれに気づかずにキラリと笑みを浮かべて言う。
「つまり、俺はイケてる?」
『イケてない』
俺たちはハモって答えて予鈴がなった。
「じゃあ、ホームルーム終わり」
「起立」
日直の人が言うと俺たちは起立した。
「礼」
「ありがとうございました」
それで本日の授業は終わり。
そして、僕は教科書と筆記用具はカバンにしまおうとしたところで肩を組まされた。
「おお、いいなぁ、土曜日は。授業が少なくていい」
「何の用だ?」
無色透明の声色でさだに問いかける。
「いヤァ。明日からは日曜日だろ?だから駅前のカラオケでも・・・・・グェ!」
そういい終わらないうちに恭子がさだの首根っこを掴んだ(つかんだ)。
「あんた。一体いつから純の友達やっているの?純は妹を迎えに行くに決まってるじゃない」
それに腕組みしながらすくっとさだが立ち上がる。
「そうかそうか、妹さんとの二人の下校か。くーっ!羨ましいぞ(うらやましいぞ)!純!」
さだよ、お前は僕の妹の年齢を何歳だと思っているんだ?
「カラオケは他の男子と誘いなさい」
それにさだはいたってシリアスな表情をした。
「いや、俺、お前ら以外に友達いないんだわ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、俺は妹迎えに行くから」
「私は女の子の友達遊ぶ予定入っているから」
「待って、待って!置いていかないで!なんでもするからぁー。ひとりにしないでよぉ〜!」
「気色悪い声出さないで。あんた他の女子からかなり嫌われてるんだから、あんたをついていくことはできないの!」
「そんなぁ!」
奈落の底に落ちるさだ。僕は嘆息してさだに話しかけた。
「じゃあ、俺と来るか?さだ」
「じゅ〜ん」
涙いっぱいに溜めたさだがこちらを振り向いた。
「今日は土曜日で今は3時だ。今の時間帯なら保護者同伴なら小学生もカラオケに入れるから、来るか?」
「ジューン!俺のソウルメイトよ!」
そして、ジュンは俺の胸で泣いてしまった。
それに恭子は先ほどの俺の言葉を疑問に思った。
「あれ?小学生は保護者同伴じゃないとダメじゃなかった?ジュンは実質的な保護者だけど、普通法律的に高校生を保護者とは呼ばないわ」
「いや、それはどうだろう?僕は今月の2日に18になったから保護者として通っても大丈夫、だと、思うけど・・・・・・・・・・まあな。それはちょっと店と相談するわ。ダメだったらバイバイな、さだ」
それにさだはカクカクと頷いた(うなずいた)。
「わかった、わかったよ。それがダメだったら諦める(あきらめる)」
「ほんと、さだは純と友達になれてよかったね。あなた、もし純がいなかったらぼっちだったわよ?」
「ううう、中学生までの俺は本当にぼっちだったんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、私友達と待ち合わせだから行くね」
「さだも、一緒に小学校へ行こうか?」
「おう!」
さっきのさだの発言はノーコメントという暗黙の了解が一瞬にして出来上がった。
それはともかく、僕とさだは南小学校へ向かった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。今日ね、愛菜ね。お絵描きしたの、そうしたらね。先生に褒められ(ほめられ)ちゃった。お兄ちゃんにも後で見せてあげるね」
笑顔いっぱいの愛の言葉にこちらも笑顔いっぱいで答える。
「うん。楽しみにしてるよ。褒められてよかったね」
そう言うと愛菜は笑みをにぱーっと輝かせた。
「うん!」
結局、僕は愛菜の保護者として認められず、カラオケ店には入れなかった。さだはその場で男泣きして、一人でカラオケをする!と言って入った。
アイツ馬鹿なんだけどいいやつなんだよな。ちょっと悪かったか。
まあ、そうは言っても普通に考えれば認められるはずはなかった。
ここ、2、3年か。愛菜を迎えるために友達の遊びの誘いをことごとく断っているのは。そのせいでさだではないが中学生の時にはどんどん友達の数が減っていったんだよな。
まあ、中学受験にはちょうど良かったし、高校に入ってからさだや恭子が友達になってくれた。夏子先生とも親しくなれたし、それなりに充実した高校生活を送っていると思う。
「それでね、それでね。お兄ちゃん」
「うん、なんだい?愛菜」
ほどなく、マンションに着いて暗証番号を入力し、入室する。そして、エレベーターに乗るまでの間、ずっと愛菜はムズムズしていた。
そんな愛菜に僕は微笑みかける。
「部屋に着いたらゆっくり聞いてやるからな」
愛菜の顔が黄色に染まる。
「うん!」
それから、部屋に着いて愛菜の話を1時間聞いた後に、愛菜が少女向けのアニメに没頭している間に洗濯物を取り込み、夕食の準備に取り掛かった(とりかかった)。しかし。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
包丁と玉ねぎを持っていると愛菜が駆け寄ってきた。それらを置いて愛菜の視線までかがむ。
「なんだい?」
「あのね、あのね。ガチャでドラゴンをゲットしたの」
そうやって愛菜はスマホを取り出し、子供向けのゲームの画面を見せた。そこにはいかにも子供向けのドラゴンがいた。
「強そうだね」
「うん☆」
「今はレベル1かな?」
「うん」
「また、強くなったら見せて」
そう言うと愛菜は歯を見せながらにぱーっとした笑みを見せた。
「うん☆」
スマホは愛菜に持たせているが、一応年齢制限はかけてある。よく、識者たちは子供をゲームに触れさせるとダメになると言うが、それはある種の親にとって残酷な言葉だ。
ゲームでもやってもらわないと満足に家事ができない。現実問題として。
ただ、ゲーム漬けにさせて親との接触がないと言う意見もあるが、それはそれで事実だと思う。なので、僕自身できるだけ愛菜に構う時間を意識して作ってる。
ともかく、玉ねぎと人参とジャガイモを切り終えるとまた愛菜がパタパタとやってきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「これね」
「うん」
マナはまたスマホの画面を見せた。
「ドラゴンがレベル10になったの」
「おお、よかったね」
くしゃくしゃと愛菜の髪を撫でる。それに愛菜は気持ちよさそうにしていた。
「愛菜」「あのね、あのね」
二人同時に言葉を出す。僕は愛菜に譲った(ゆずった)。
「なんだい?愛菜。先に言ってごらん?」
「あのね、あのね。このドラゴン、とっても強いの。一体でね、なんいど40のダンジョンをクリアできたんだよ。普通はね、レベル10じゃ、クリア、できないんだよ」
僕は微笑んだ。僕ももう10年前までは小学生だった。だから、ゲームで強キャラを手に入れる気持ちはよくわかった。残念ながらおばあちゃんにはわかってもらわずにその時は悲しかったが、だからこそ、愛菜が今何を望んでいるのかわかる。
「よかったね。強いモンスター手に入れて」
愛菜の鼻が天高く昇った。
そうなのだ。大したことじゃない。それ手に入れてよかったね、と言えばいい話なのだ。でも、今ならおばあちゃんの気持ちもわかる。
おばあちゃんはゲームとか全然わからなかったから理解してくれなかったのも無理はない。
僕も高校生になって、これは理解に苦しむ、というこだわりができてきた。理解できないものを共感するのは、まず理解できないということを伝えなければならない。
しかし、小学生は自分の理解するものが世界の全てで、家族に自分のことを理解してほしいと願っているのだ。
だから、年長者が子供の趣味を理解できないとかなりしこりが残る。
少なくとも僕はそうだった。おばあちゃんのことは好きだったが、それに関しては今でも納得いかない気持ちはあった。
でも、不思議だな。確かにあったけど、愛菜の話に共感しているうちにかさぶたになったよ。その傷も。
「愛菜」
僕はにこやかに愛菜に話しかける。
「何?お兄ちゃん」
「これから肉を扱うから僕が話しかけるまで話しかけないでおくれ。我慢できる?」
「うっ!」
愛菜は下を向く。
「我慢、する」
「うん。ありがとう。僕もすぐ終わらせるからね」
「うん!」
それから鶏肉を切って、それから炒め、ジャガイモ、ニンジンを入れ、色づいたところで、玉ねぎを入れた。
「お兄ちゃん!」
愛菜の声が聞こえた。
「まだー!?」
「まだー!ちょっと待っててね!」
俺の大声に愛菜も負けじと大声で言う。
「うん!」
「よし、カレー完成」
それに呼応するように愛菜がひょっこり顔を出す。
「お料理できたの?」
「ああ」
「じゃあね、じゃあね。愛菜、お兄ちゃんと」
「待て、愛菜」
自分でも気づかないうちにとんがった声を出してしまった。
愛菜は一瞬傷ついた表情をする。
「何?お兄ちゃん?」
「あ」
ちょっと怖がらせちゃったかな?
僕は愛菜の視線まで屈んで言った。
「ごめんね。愛菜。さっきは怖がらせるつもりで言ったんじゃないんだ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ただ、料理をやった後って、なんと言うか攻撃的な気分になるんだ。だから、責めるような口ぶりをしてごめんね」
そして、僕は愛菜に頭を下げた。愛菜のまじまじとした視線を感じ、そして、頭に小さな感触が来た。
「いい子、いい子」
僕はゆっくり顔を持ち上げる。
「許してくれる?」
愛菜は鮮やかな真珠色の表情をした。
「うん!」
「じゃあ、悪いんだけど、愛菜に夕食のお手伝いをしてもらおうかな?大丈夫?」
そう、猫なででいうと愛菜はニッカリ頷いた(うなずいた)。
「うん!」
「今日はカレーだからコップにスプーンを4つ入れて」
「うん・・・・・」
愛菜はコップにスプーンを4つ入れた。
「ああ、違う、違う。これは主にアイス用のスプーンだから、入れるのは大きなスプーン。戻して」
愛菜は小さなスプーンを戻す。
「大きなスプーンの場所がわからない?」
コクリ。
「そういう時は人に聞いて。知らないことは恥じゃないから」
「うん」
「大きなスプーンはここにある」
愛菜は大きなスプーンを4つコップに入れた。
「ふふ、一つフォークが入っているよ?」
「あ!ホントだ!」
「戻してね」
「うん」
愛菜はフォークを戻して、スプーンを入れた。
「うん、4つだね。食卓に並べて」
「うん」
そう言っているうちに俺はカレーを盛り付けていく。
愛菜が戻ってきた。
「次は何をすればいい?」
「コップを二つ出して」
「うん」
俺はカレーを盛り付け、それを食卓に運んだ。
「ありゃ?」
「どうしたの?」
「愛菜」
僕は愛菜が持ってきたコップを持って、屈んで愛菜に見せた。
「これは来客用のコップ。僕が言っていたのはグラスかマグカップ。違いはわかる?」
愛菜は首を横に振る。
「わかんない」
「来て」
「うん」
僕たちは食器の前に来る。そして、僕は愛菜が持ってきたものを戻し、グラスとマグカップを持った。
「これがグラス、これがマグカップ。お茶を入れるときにはこの両方を使う」
「さっきのじゃ、ダメなの?」
「さっきのは来客用のグラス。主に緑茶を入れるのに使う。家族の人には普通使わない」
「うーん?」
「まあ、今はわからないでもいいよ。おいおい、わかっていけばいいから。じゃあ、食事にする?」
愛菜は首を横に振る。
「お兄ちゃんとゲームしたい」
「なら、一戦な。今日は愛菜の楽しみにしているアニメがあるから、早く食べて、お風呂に入って、見よう」
それに愛菜の顔がパーッと輝いた。
「そうだった!すっかりわすれてた!」
「はは、愛菜はすぐに忘れるなぁ」
そう言って、僕は愛菜のおでこを指で突っつく。愛菜は笑っていた。
「じゃあ、始めるか。愛菜はさっきのドラゴン、使う?」
愛菜は首を横に振る。
「まだ、マックスに行ってない」
「そうか。僕はいつものやつ、使うかな」
「うん、しよう!」
そして、僕たちはゲームを開始した。
僕たちがやっているゲームはモンスターフィールド。
このゲームはなかなか面白く、デザインは小学生向けだが、本格的なゲーマー向きのゲームである。
24マスのマス目に8つのモンスターを並べてオートで戦うのだが、モンスター自身のスキルも重要だが、モンスターの思考ルーチンもそれぞれ異なっていて種族ごとでも違うが、同じ種族であっても違うルーチンをするモンスターもいる。
覚えるスキルも同様で基本的にモンスターの好みに合わせてスキルは覚えていくのだが、しかし、ランダムではなく、思考ルーチンの方に合わせて覚えるのでなかなか配置とモンスターの組み合わせによっては使えることもある。
だが、それでは小学生達にはきつすぎるので。1オン1システムもあり。3体のモンスターが一体ずつ戦うシステムで、これなら何もわからない小学生にもわかりやすいものだ。
もちろん、そのシステムにして、愛菜はマントを被ったデビルとヴァンパイヤとウンディーネを出し、僕はスケルトンとゴーレム、それとヴァルキリーを出す。
明らかに僕の方が弱そうで、実際に1on1では弱いのだが、まあ、小学生相手にマジになることもない。適当に戦う、というかオートなのでただ観戦するだけなのだ。
「いくよ」
「うん」
フレンド対戦にして試合が始まった。まず、愛菜が出したのはヴァンパイヤ。マナの一番のお気に入りのキャラだ。一応、このキャラがこのシステムでは最強キャラで、愛菜の誕生日に僕のお年玉で課金して愛菜のアプリでゲットしたものだ。
このキャラは何が強いかといったら、最初っから回避力と命中力が高いくせに遠距離からデバブを使いまくって、敵を弱体化させた上に、近距離では吸血攻撃を行い、これが攻撃力が高い上に攻撃の100パーセント回復という一見したら壊れキャラのように見えて、この種族はデバブが強いのに、チーム戦では好き勝手なことばかりするから扱いにくいという、なんともゲーマーの心をくすぐる愛されキャラなのだ。
対する僕の出すのはスケルトン。
攻撃は全部近距離、しかし、倒せれても3ターン後には復活するというチーム戦では囮として使える。しかし、1on1では全く使えないが、僕はこのスケルトンが好きで愛菜相手だとよく使う、しかし・・・・・・・・。
ヴァンパイヤの蝙蝠軍団で麻痺されたところに一気に接近されて噛みつきで死亡。
2体目、ゴーレム。
耐久力が高く。攻撃力もこのゲーム随一の持ち主だが、遅いし、命中力がまず当たらない。
チーム戦では盾として使えたり、麻痺した相手を優先的に攻撃するから、使えるといえば使えるが・・・・・・・・・・。
ヴァンパイヤが接近する。ゴーレムが攻撃するが、影だけ残して避ける、また、攻撃するが影を残して避ける。それを繰り返して、5回ほど影ができたところをヴァンパイヤの影が一気にゴーレムに襲いかかる!
その瞬間、ゴーレムの体力は8話ありほど削られ、ヴァンパイヤが高笑いをする。
出たよ。ヴァンパイヤの最大のウィークポイント。このゲームは、攻撃する速度も決まっているが、相手に攻撃が当たった瞬間、2秒ぐらい相手は硬直をする。
その瞬間、すべての攻撃の回避率がゼロになるため、この硬直をうまく使うことがこのゲームを制するといってもいい。
しかも、ヴァンパイヤは避けた瞬間、影を残し、その影を任意のタイミングで攻撃することができる。
攻撃する瞬間も回避率は0%なのでうまく使えば最強キャラだが、ヴァンパイヤの性格は揃いに揃って、賢く立ち回るというよりも、自分の面白いことばかりするので、本来ならあんなに影を出す必要はないんだ。特にチーム戦ではその必要がないのに、命中率の低い相手だと相手の射程内に行き避けまくっておちょくることばかりするから、使いにくい。
まあ、でも、これでうまく立ち回れるようなキャラだったらそんなに愛されてはないと思うが、このキャラも、このゲームも。
閑話休題。
ともかく、最後に出てくるのはヴァルキリー。デバブ無効の戦士で、バブのスキルを覚えるものもいる。
とにかく、ヴァルキリーの長所は扱いやすいことにある。基本的にヒットポイントの低いものを守るように動き、バブスキルを持っていたらうまくそれを生かすように動いてくれる。
かくいう僕のヴァルキリーもバブスキル持ちでチーム戦ではうまく動いてくれるが、この勝ち抜き戦ではあまり意味がない。
ヴァルキリーはバブスキルを自身にかけて、ヴァンパイヤに斬りかかる。ヴァルキリーは命中率も高く、攻撃も当たるが、即座にヴァンパイヤが吸血をして攻撃を与えると同時に回復する。そして、ヴァルキリーの二度目のアタックに、ヴァンパイヤは避けて影と一緒に同時攻撃。ヴァルキリーは倒された。
「はい、おしまい。愛菜強かったね」
そう言ってニコニコして愛菜の頭を撫でる。愛菜は勝ち誇った表情をして胸を仰け反った。
「お兄ちゃんがよわすぎるんだよ」
「はは、参った」
両手を上げて降参のポーズをする。それにますます愛菜の自身が増長する。
「じゃあ、ゲームも終わったし、夕食食べるか?」
「うん。愛菜、お腹ペコペコ」
それに僕は微笑んだ。
「そうかそうか。なら、カレー食べようね」
愛菜は向日葵の表情をした。
「うん!」
「愛菜、水かけるよ」
愛菜の体が震えた。
「うん」
僕は愛菜の髪にお湯をかけていく。
「大丈夫?」
まなに優しく問いかけた。愛菜は唇をキュッと結んで頷いた(うなずいた)。
お湯をかけ、髪に水分をしっかり湿らせたところでお湯を止める。すかさず、愛菜は首をブンブン横に振った。
俺は微笑む。
「じゃあ、シャンプーで洗うね。目をしっかり閉じていて」
「うん」
そうして、目を閉じているマナでシャンプで髪を洗い、またお湯をかけ、シャンプーを流していく。
ちゃんと目の方まで流して、止めた。
「大丈夫だった?」
コクコクと愛菜は頷いた(うなずいた)。
「よしよし、もう、お風呂はいっていいよ」
「うん」
もう、体は洗ったしな。
そして、次は僕が体を洗い、髪も洗うはずだったが。
「お兄ちゃん」
「なんだい?」
「愛菜ね、もうお風呂から出ていいかな?」
どうやらじっとできないお年頃らしい。
「まだだよ。お兄ちゃんと一緒に入りたくないの?」
「それは入りたいけど、たいくつ」
それに僕は苦笑する。
「まあ、我慢して。すぐに済ませるから」
そして急いでシャンプーで髪を洗い、流し、愛菜の入っているお風呂に入り愛菜を抱きしめた。
「どうだ!」
「わぁ!」
そのまま体を揺らす。愛菜はきゃっきゃっきゃきゃっ喜んでいいた。
そして、ニカーとした笑みを僕に見せる。僕も微笑んだ。
「もう、あがっていい?」
「駄目、あと1分」
それに愛菜はプクーと頬を膨らます(ふくらます)。
「1ぷんてなんびょう?」
「60秒」
「60、59、58、57・・・・・・・・」
愛菜の拙い(つたない)声を聞きながら湯船に浸かっていると、ふと、これが幸福なんだな、、と思ってしまう。
やれやれ、高校生がもう幸福の境地に達するなんて早すぎるだろ、僕は。
「51.50、あれ?50のつぎはなんだったっけ?」
「40」
「40、41、42・・・・」
思わず苦笑する。
「愛菜、この場合はね、49、48と数えて最後をゼロにするんだよ」
「そっか!」
それに愛菜は得心いったようにポンと手を叩いた。
「あぶない、あぶない。あやうくだまされるところだった」
それに僕は大きく笑った。
やれやれ、子供はどこからこんな言葉を知るんだろうな?本当、愛菜は、子供は見ていてて飽きないよ。
それから、愛菜と一緒にお風呂にでて、愛菜の体を拭き(ふき)、その後に僕は自分の体を拭き(ふき)、パジャマに着替えた。
「愛菜」
ソファーに座って、愛菜を呼ぶ。愛菜はトコトコとこちらに来た。
「ほれ、オレンジジュース出したから飲んでおけ」
「うん♡」
二つのグラスに入ったオレンジジュースを愛菜は一つとった。僕ももう片方をとって飲んだ。
愛菜はまたニカーっとした笑みを見せる。
「おいしい」
「うん。水分補給は大切だからな」
そして、僕はテレビを操作した。
「じゃあ、前に録画したアニメ、見るか?」
それに愛菜はパーっと顔を輝かせた。
「うん!」
録画していたアニメとは。春アニメのことで勇者が魔王を倒す王道ハイブリッドファンタジーなのだ。僕が小学生の頃はやっていた漫画が原作で、愛菜とは一緒にこのアニメ見ようね、と言っていたが、冬にはおばあちゃんの葬式とかもあってバタバタしていたので、結局この3月間に録画したやつを一気に見ることになったのだ。
「じゃあ、見るか。明日は休みだしな」
それに愛菜はコクリと頷いた(うなずいた)。
「うん」
アニメの内容はベタな内容で、平凡に暮らしていた騎士志望の少年が突如復活した魔王軍に襲われて、魔王軍に対して復讐を誓う、ほんとベタな内容のものだった。
ただ、最近の少年の漫画の、少女のお色気を描いてけばいいだろ、と言うのとは違っていて、そこはしっかりとした王道展開の漫画になっていた。そして、僕たちはそれを見た。
やっぱり、王道ものはいいな。長すぎるものはあれだけど、このアニメはワンクールで終わるし。
お色気シーンもなく、おてんばなお姫様が出てくるが、その姫は魔法の力は強く、幼い頃から天才と謳われて(うたわれて)、魔王軍が出てきたときも先頭を切って戦おうとするが、主人公の少年は女の子に戦わせることはできない、と言って、お姫様は戦わせまいとするが、それに姫のプライドが切れて、いつも主人公と喧嘩してしまうが、でも、だんだんに二人の間に友情、そして愛情が生まれるのだ。
序盤はそのお姫様と口論するシーンがメインだが・・・・・
いい話だ。
と、勝手に感傷に浸って(ひたって)しまう、僕だった。
2話を終わった段階で2話を終わった段階で愛菜は僕の膝の上でうとうとしていた。
「愛菜」
愛菜の体をゆらすが起きない。
仕方ない。
僕は起こさぬように、そっと真名をお姫さま抱っこすると、愛菜の寝室に運んだ。
そして、布団に入れて毛布をかける。
今日も一緒に寝ることとなるかな?
そう思い、苦笑する。
いつもは母が寝る時が多いが、早く帰ってない時は僕が愛菜と一緒に寝ることとなるのだ。
愛菜は一人で寝れないからな。母が帰ってくるまで添い寝するか。
そう思い、僕もベッドの中に入ると、その時扉が開く音がした。
玄関の方へ行くと母だった。
「お帰りなさい」
母はげんなりとした口調で言う。
「ただいまー」
母は若かりし頃は美人だっただろうと言う痕跡をうかがわせる、きれいめな顔立ちをしているが、肌にツヤがなく、シワも確実に増えていき、少しずつただのおばちゃんになっていっている。
「お母さん。愛菜が寝たから添い寝しとくね。今晩はカレーだから、適当に温めておいて食べてね」
しかし、お母さんは手を前に突き出す。
「いや、大丈夫。もう、寝るから」
「お母さん」
「今日は本当に疲れて、もう目を開けるのもしんどいの。愛菜と一緒に寝るわ。カレーは明日食べるし、明日風呂にいるから」
「うん。仕事気をつけてね」
それに返事をするのも億劫なのか、ブラブラと手を降って愛菜の寝室に入っていった。
「さて」
僕は伸びをする。
「勉強するか」
眠気でうとうとしている頭をしゃっきりさせて、僕は勉強を始めた。
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