どうやらゲームマスターは、デスゲームに呼ぶべき人を間違えたようだ
小ネタです。
「…ここはどこだ?」
目が覚めると、薄暗くて広い部屋の中にいた。
確か俺は、とあるホテルのベッドで眠っていた筈だ。
ホテル完備のアイマスクと耳栓の性能がとてもよく、すぐに眠りについたのは覚えている。
しかし、ベッドごと移動させられたのか、明らかにここはホテルの一室ではなかった。
「うーん…へ?どゆこと?」
「起きて!お兄ちゃん」
「…ん?どうした?」
「………」
辺りを見渡すと他にも4つのベッドがあり、そのうち3つにはそれぞれ少年、俺と同じくらいの青年、女性がいて、1つには誰かが寝ていた形跡がある。
おそらくそれは、既に起きていた少女のものであろう。
この部屋にいるのは、俺を含めて5人。
『フッフッフ、目が覚めたか』
「誰だ!」
ボイスチェンジャーがかかっているのか、低音の野太い声が部屋に響き渡る。
するとモニターが上から現れ、画面に1つの切れ目のようなマークが写る。
『私はゲームマスター。今から貴様らには命を懸けたゲームをしてもらう。クリアすればここから出してやろう』
「は?ゲームだと?悪ふざけは大概にしr」パァン!
銃声と共に、今声を上げた青年が倒れる。
「お兄ちゃん!」
『貴様らに拒否権はない。にも関わらず反抗的な態度を見せたために、ゲームの開始前にしてもう脱落者がでてしまったな。まあ最悪の場合、今ここで残り1人になったとしてもゲームの実行は可能だ。支障はないだろう』
「……」
部屋が暗いせいでパッと見気づかなかったが、壁をよく見るとあちこちに穴が空いており、そこから銃口が顔を出していた。
いつでも俺たちを撃ち殺せると言わんばかりに。
『まあ、これまで平凡な日々をぬくぬくと過ごしてきたであろう貴様らが、いきなりこの非日常なゲームに連れ込まれて混乱するのは無理もないだろう。だが、早く状況を理解した方が身のためだぞ?今の奴のようになりたくなければな』
…状況は理解した。俺は状況を飲み込むのが早い方だ。
俺は今、デスゲームを迫られている。
反抗的な態度がどうとかゲームマスターは言っているが、今の青年の態度を反抗と見做すのは早計のように感じる。
おそらくは、最初から適当な理由をつけて誰か一人を殺す筋書きだったのだろう。
気分次第で俺達を躊躇なく殺すと、その見せしめにするために。
これはもう、やるしかないのか?
と思ったその時―――銃口が一斉にグニャリと折れ曲がった。
『…は?な…なんだ?…』
ゲームマスターにとっても想定外のようで、さっきまでの余裕のある口調が消え失せていた。
「この程度じゃ僕は殺せないよ。残念だったね」
口を開いたのは少年。この少年が何かしたようだ。
『ちっ!馬鹿にするな!』
ゲームマスターは興奮した口調で叫ぶ。すると天井からも穴が空き、少年に銃弾が発射される。
しかし、銃弾は空中で停止し、その銃口もグニャリと折れ曲がった。
「僕は念力が使えるんだ。出せる力に限界はあるけど、このぐらいなら対応できる」
『念力だと?そんなものがあってたまるか!』
ゲームマスターは自分が用意した殺人システムがあっさり破壊されたことが受け入れられないようで、取り乱している。
その後も爆弾やら毒ガスやらが部屋に投与されたが、どれも少年の念力によって無力化された。
しかし、そんな状況がしばらく続いた後、ゲームマスターはなぜか落ち着きを取り戻した。
『ふん。念力が使えるというのは認めよう。だが、なぜそんなに涼しい顔をしていられる?』
「?」
『後ろを見ろ』
「…」
少年の後ろには、さっき撃たれた青年が倒れている。
そのすぐそばには、青年の妹と思わしき少女が座っている。
『奴が死んだのは、貴様がすぐに守らなかったせいだとも言える』
「それは…ちょっと屁理屈がすぎるんじゃ…」
『どうだろうな。少なくともそこにいる奴の妹は相当辛い思いをしているだろうな』
もはやゲームマスターはデスゲームを諦め、少年へ一泡吹かせることを目標に行動していた。
物理攻撃は念力で回避されてしまうために、精神的に追い詰める方針へ切り替えたのだろう。
そして、どうやらそのゲームマスターの作戦は有効であったようで、少年の口調に動揺が現れていた。
確かに少年にとって青年が撃たれるのを防げていた可能性はあるが、別に防ぐ義務があるわけではない。
なので責任感を感じる必要はないと俺は思うのだが…まあ、まだ若い少年にとってそう割り切って考えるのは簡単な話ではないだろう。
ただ、それはそれとして少年やゲームマスターは気づいてないのだろうか。
「ん?お兄ちゃんがどうかしたの?」
『何?!』
少女は平然とした口調でそう言った。
「というかお兄ちゃん、いつまで倒れてるの?」
「ごめんごめん。なんとなく起き上がる雰囲気じゃない気がしてな」
青年の胸の傷口はとっくにふさがっているし、顔色も悪くない。
『な、なぜ生きている!心臓を撃ったはずだ!』
「確かに死んだし痛かったけど、死んだなら生き返ればいいだけだろ?なあ」
「うん。別に変なことじゃないよね?」
いや、普通は死んだら生き返らないと思うが…
おそらく彼らは特別なのだろう。
「ところで、どうやってここから出ればいいんだ?」
「そんなの簡単だよ。ほら、あそこの扉を破壊して…破壊し…あれ?なんで?」
俺たちが運ばれたときに使われたと思われる出入口の扉がある。
そして念力の少年が何かしてるのか、扉がガタガタと揺れているが、扉が壊れる気配は全くない。
『ふはは!残念だったな!その扉や壁は戦車でも壊せない!』
ゲームマスターはしばらく唖然としていたのだが、今の様子をみて調子を取り戻したらしい。
『更にここは施設の地下深く。仮に貴様の念力とやらで天井や壁を壊されたとて、壁が崩れて生き埋めになるだけだ!よし決めた、貴様らは一生ここに閉じ込「えい!」め…』
これまでずっと黙っていた女性が、何もないところで手刀のように手を動かす。
すると、そこから光が射し込んできた。
「空間を切り裂いて外に繋げました。ここから出ましょう」
『嘘だろ…』
確かに切り裂かれたところは外に繋がっている。
ホテルの前だ。
「とりあえずホテルまで繋げましたが、住所を教えてくだされば、そこまで送ります」
「そこのお姉さん、ナイス!」
「ありがとうございます。よし、帰ろうか」
「うん!」
ホテルの部屋に置いていた荷物が無事だとは思えないが、家に帰れるならどうにかなるだろう。
そして、俺たちが帰ろうとしていると、
『まて!』
まだ何かあるのだろうか。
『ゴホン、今回は帰してやろう。だがこれだけは覚えておけ。貴様らは私を怒らせた』
『貴様らの住所を特定するなど容易い。貴様らには死ぬまでの間、暗殺部隊を送り続けてやる。せいぜい、いつ来るかわからない恐怖に一生を怯えながら過ごすことだな。ではさらばだ!』プツン
モニターが暗転した。
「それは…まずいな」
「うん、正直困るよな」
「どうしよう」
「……」
俺たちは寝てる間にここへ連れ込まれた。
それは俺たちが不意打ちに弱いことを意味している。
…ふむ、何もせずにすむならラッキーだったが、そうもいかないようだ。
「戻ってこい」
俺がそう言うと、再び画面が写る。
『っ、体が勝手に?!』
「よく聞け、俺は相手を命令に従わせる能力を持っている。そして俺が命令したならば、相手に聞こえたかに関わらず発動する」
『』
この能力は他者からすれば非常に恐ろしいものである。
そのため、普通の人生を歩みたい俺は能力を隠し、緊急時を除いての使用は控えるようにしている。
俺が今まで何もしなかったのは、他の誰かが解決してくれるなら任せようと思っていたからだ。
だが、これはもう仕方ないだろう。
「あとでお前を含む関係者全員に、ホテルの前まで来てもらう。そこでじっくり話し合おう。余計なことはするなよ」
『は、ははは、もう沢山だ…』
その後、ゲームマスターやらその関係者がホテルの前に集まった。
俺が命令したとき、ゲームマスターが先頭でその後ろに仲間が横並びで列をつくり、全員が正座で待機している様子をイメージしたため、その通りとなった。
まあ、思ったよりその人数は多かったが。
そして彼らには、今後俺たちに関わらないこと、俺たちの能力を内緒にすること、二度と罪の無い人間に迷惑を掛けないことを約束させ、荷物も返してもらい、ついでに迷惑料ももらい、俺たちはそれぞれ家に帰った。