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6.あと山田。②




「お待たせしてごめんなさいね、皆さん。この子のご紹介の前にご説明させて頂きます。ロベルト様はご存知ですが私ミネアには、ミネアとして生まれる前の記憶、いわゆる前世の記憶があります。こことは異なる世界で生まれ育った記憶です」


 私が落ち着くのを待ってお姉ちゃんが皆に説明を始めた。

 皆への説明を聞きながら私も状況を理解していく。異なるって違うってことだよなあ。違う世界なのか。そりゃ帰って来れないよな、お姉ちゃん。

 なんかまたちょっと悲しくなってきた。


「前世の? ではつまり、こちらの勇者様は前世のミネア様の妹御であらせられると」


 大魔道士だからかダ・ヴィンチが凄い食い付いた。興味があるんだろう。

 目が爛々と楽しげに輝いている。


「おや。また涙が。手拭きをどうぞ」

「あざま」

「あざま?」

「ありがとうございまーす」


 でもハンカチ渡してくれた。優しい。

 さっきは何とか部屋でいじってごめんな。


「はい。前世では十八の時に突然の事故で命を落としました。こちらで生まれてからは育つ内に少しずつ記憶が蘇っておりましたが……、まさか妹と再会できるとは思ってもみませんでした」


 くすくすと小さく笑う姿は前世のマナちゃんの頃と同じだ。所作は綺麗になっているけれど時々マナちゃんと同じ仕草をするミネアさんは、やっぱり私のお姉ちゃんだ。

 いかん。また泣けてきた。


 私もまた会えるとは思ってなかったよ。会いたいとは思ってたけど。

 会えたら嬉しいのに哀しいとか、よく分からない気持ちになるもんだね。


「……どうぞ」

「あざす」

「あざす?」

「ありがとうございまーす」


 相変わらずダ・ヴィンチは新しいハンカチを渡してくれる。


「妹殿と仲が良かったんだな……」

「六つ歳が離れていましたから、幼いこの子のおしめを替えたりミルクをあげたり。可愛がっておりました」

「可愛がられておりました。お姉ちゃん大好き。お姉ちゃんを泣かせる奴はいない? こっちの世界にはいない?」

「いない、いない。いないから地味な嫌がらせを誰かに仕掛けないでね? いい? こっちの世界では本当にダメだからね?」

「うい」

「ふむ……。不思議な事もあるものだな。縁だろうか。それで、ミネア。先程から度々出てきたリヒトとは誰の事だ」

「お姉ちゃんの彼氏さんだよ」

「かれし?」


 あんだよ。彼氏って言葉が無いのか。説明が面倒くさいな。


「恋人だよ。お姉ちゃんと五年付き合っててラブラブで、お姉ちゃんが死んだら後追いしたんだよ」

「私以外の男がいたのか!?」

「ロベルト様、ロベルト様! 前世です。前世。ミネアとして生まれる前の話です」

「それでも悔しいっ! ……くそ、誰だリヒトォ」

「ロベルトさんじゃないかな」

「えっ」

「えっ」

「えっ」


 お姉ちゃんとロベルトさんとダ・ヴィンチ三人の声が揃ってハモってて笑う。仲良いな。

 お姉ちゃんは本当にここで生きてるんだな。ちゃんとまた生きてるんだな。

 哀しいけど嬉しい。

 どうにかしてお父さんとお母さんにも教えてあげたいな。人間って死にっぱなしじゃないんだね。死にっぱなしって何だよって感じだけど。


「なんかね、ミネアさんがお姉ちゃんだって分かったら、なんか見えるようになったんだけど……。いや、違うな。見えてたものが何なのか分かるようになったのか?」

「どういうことだ?」

「何となく、その人と成り? 魂? が見えるんだけど、ミネアさんとお姉ちゃんが同じなんだよね。んで、二人が同一人物でしょ? なら、リヒトくんはロベルトさんだよ」


 そう教えた途端に見詰め合う二人は、まさに二年前までよく見ていたリヒトくんとお姉ちゃんの姿そのもので、私はまたなんか泣けてきてしまった。

 ああ、生まれ変わってもまた好き合って傍に居るんだ。この二人。

 死に損じゃなかったね、お兄ちゃん。


「妹御……手拭きをどうぞ」

「ありりあんと」

「ありりあんと?」

「ありがとうございまーす」

「確かにミネアが居ない世界でなんて生きられないとは言ったが……、私は前世からこうなのか」

「本当に実行した過去があると判明した今となっては笑えませんね」

「せいぜい傍にいてくれ」

「そうします」


 なんだあの仲良し。いいね、素敵。

 二人がにこにこしていると私も嬉しい。


「じゃあさ、じゃあさ。私ロベルトさんをまたお兄ちゃんって呼んでも許されるー? 偉い人? なんだよね。怒られる?」

「とんでもない、勿論そう呼んでくれて構わない。前世とは言えミネアの妹殿。そんな方に兄と認められるのはこちらこそ願ったりだ。それに近い内に式も挙げる予定だったからちょうど良い」

「式?」

「結婚式だ」

「……お姉ちゃん、リヒトくんと結婚するの?」

「そうよ。再来月の予定よ」


 さっきからちびちび泣いてたけどまたナイアガラみたいに涙が出てきた。


「うわああああああ! お姉ちゃん、お姉ちゃんんんっ! よか、良かったねえええ」

「ふふ、ありがとう」

「リヒトくん、リヒ……ロベルトさん、良かったね。良かった……。ロベヒトさん」

「混ざってる混ざってる」

「マナちゃん、あのね、リヒッおえ」


 これ以上、無理に喋ったら喉からなんか出てきそう。

 でも言いたい。ちゃんと教えたい。伝えたい。お姉ちゃんにちゃんと知ってほしかった。


「泣き過ぎよ、えずいてるじゃない。お水飲んで。落ち着いて」

「大丈夫。聞いて。聞いて。あのね、リヒトくんね、お姉ちゃんと結婚したくて、しようとしてて、指輪買ってあったんだよ」

「え……」

「お姉ちゃんが高校卒業したらプロポーズして、お姉ちゃんが短大卒業したら結婚するつもりだったって。子供のやる事だからって大人には言われるって分かってたけど、それでもお姉ちゃんとずっと一緒にいる約束をしたいって」


 お姉ちゃん、潤んだ目で見てるけどその人はロベルトさんです。リヒトくんだけど。

 でも指輪を用意してたのはリヒトくんです。そっちの人の事も忘れないであげてね。


「リヒトくんに頼まれて、私、こっそりお姉ちゃんの薬指のサイズ測ったの」

「うそ……ホント? 本当に?」

「ほんと。お姉ちゃんが寝てる間に渡されてた輪っかの道具で。何だっけ、あれ。あれあれ」

「リングゲージ?」

「たぶんそれ。ねえ、ロベルトさん。指輪は? こっちでは結婚式に指輪は使う?」

「あ、ああ。一般的には腕輪を交換するんだが、王族は守護の魔力を込めた指輪も贈り合うから用意してある……、あっ。ミネアには内緒だった」

「それ、タンザナイト付いてる?」

「何故知っている……」

「リヒトくんが! マナちゃんに! 用意した指輪がタンザナイトだったからだよ!! ぶわあああああああああああああああああ良かったよー!」


 勇者が何なのか分からないけど、今度こそお姉ちゃんには幸せになって欲しいから頑張ろう。

 幸せになって欲しい人がここにいる。

 不幸な結末を覆す続きが私は見たい。この二人が生きて幸せになる未来が見たい。


 お姉ちゃんの終わりがあんなんだったから、ここででも良いからとびきりの幸せに包まれて欲しい。

 ミネアさんとしてマナちゃん分も幸せになって。その姿を見せて。


「これは……勇者殿を牽制する為の式ではなく、勇者殿からも祝福されるような……、いえ。ここまで泣いて喜んで祝福してくれる勇者殿を喜ばせられるような式にせねばなりませんね」

「悪いな、レオ。いくつか段取りを変えると思う」

「構いませんよ。まさかこんな感動的な事になるとは夢にも思っておりませんでした。私もちょっと泣きそうです」


 なんかお兄ちゃんとダ・ヴィンチがちょっと涙声でよく分からんやり取りをしている。

 でもその様子を見てお姉ちゃんが幸せそうに笑うから、きっといい事を相談しているんだろうなって思う。

 ああ、嬉しい。嬉しいな。

 今日は嬉しい事ばかりだ。


「あー、あとね」


 忘れてた。さっき気付いたこと。


「ん?」

「ダ・ヴィンチは山田」

「レオナルド! 貴方、山田くんだったの!?」

「誰ですかヤマダ!!!」

「誰だヤマダァッ!!!」


 山田、お前本当に前世は大魔道士だったんだな。厨二病原体とか言ってごめんな。言い出したの誰だって犯人探ししてたけど、私だ。すまんな。

 私、お姉ちゃんの為に頑張るから。ここの世界の平和の為に頑張るから、帰ったら二年振りにデートしようね。




今話でタイトル回収できたので、次からとにかく明るくいきたいです。

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