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4.悪役令嬢と③

本日三度目の更新です。




 我が子の悲劇に国王陛下並びに王妃殿下は大いに嘆き、怒りを爆発させた。一連の事件の黒幕に対しては勿論のこと、己の非力さにも。

 ミネアの父侯爵は王太子滞在というとんでもない事態に顔を真っ青にしながらも、それでも必死に笑顔を作ってロベルトを受け入れた。その後の彼の苦労を思うとロベルトもミネアも頭が上がらない。


 ミネアの母は王宮から派遣された騎士や侍従の面談権のみを条件に、王太子滞在は勿論あらゆることをにこやかに受け入れた。

 結果、他にも居た良からぬ事を考える者は全て炙り出される。受け答え時の挙動や目の動き、王太子の名を出した時の微表情を読み取っただけと言っていたが、ミネアには何を言っているのか分からない。それはそれは見事な腕前であった。

 不埒な輩はミネアの母によって言い訳すら許されず早々に陛下へと突き返され、烈火の如く怒り狂った国王夫妻により彼らは家ごと罰せられた。


 様々な派閥の家が王太子を狙っていたが、元を辿れば全てはミネアの他に婚約者候補として名が挙がっていたランエニア侯爵家へと繋がっていた。

 本気でロベルトを愛していたらしいランエニア家のフーリエは、しかしミネアに婚約者の立場を奪われ、更にミネアがロベルトに興味を示さなかった事がよほど腹立たしかったようだ。

 最早捨て身としか言えないくらいにあの手この手で人々を脅しに脅し、脅迫し、既成事実を成さんと躍起になっていた。怖過ぎる。


 捕えた後、一度ロベルトとミネアが揃ってその侯爵令嬢に引き合わされたが、醜く叫びながら罵詈雑言を並べ立てる彼女にロベルトはドン引きしていた。

 ミネアはそんな彼女を一刀両断にした。

 他人が口出しする事では無い。ロベルトとミネアの関係はロベルトとミネアだけのものであり、赤の他人にこうあれと理想を押し付けられる筋合いは無い。ましてやお前がつべこべ言って良い理由も無い。そう言って。


 お前の理想なんざ知るか部外者が偉そうに言うなと小馬鹿にされた件の令嬢は、それはそれはもう発狂しかねんばかりであったが、あまりにも頼れる己の婚約者にロベルトは心底惚れ直した。ストーカー令嬢の目の前で。

 牢に捕らえられている状態だと言うのに、その目の前で片恋の相手が恋に落ちる瞬間を見せ付けられて、そうして罪を犯した少女の初恋は終わった。悲惨な終わりだった。



 ロベルトの精神状態が安定して国王が王宮内の人事を一新し、ようやく侯爵邸からロベルトが帰宮できるようになった頃。

 二人はしっかり相思相愛になっていた。

 特にロベルトは少々ミネアに依存気味なほど彼女を溺愛し常に傍に置いている。

 万が一、乙ゲーの主人公が現れてロベルトが少しでもそちらに気を移したら秒で婚約は解消すれば良いかと考え、ミネアもミネアでロベルトを受け入れた。お前が私を裏切った時、私もお前を裏切っている。


 そうなるとロベルトがミネアと離れられなくなっていた事の方が問題となった。

 ミネアが居ないと夜も眠れない。食事も摂れない。人間を続ける事すら難しい。

 これには誰もが頭を抱えた。ロベルト以外が。


「お帰り下さい、父上。一人で」


 極秘に我が子を迎えに侯爵邸を訪れた国王へ、侯爵家一同と並んで出迎えに出た王太子の開口一番はそれだった。

 それだけ言うと、もう言うことは無いとばかりにミネアの腰を抱き寄せてその柔らかな髪に頬を擦り寄せる。

 ロベルト、十六歳。侯爵邸滞在から二年が経っていた。


「ロ、ロベルト……?」

「私はミネアから片時も離れるつもりはありません。王太子失格と仰るなら廃嫡して頂いて結構。臣籍降下を致しましょう」

「何を言っている!?」

「私はもうミネアが居なければ息も出来ない」


 ヤバくない? え、うちの息子、ヤバくない?

 国王はその場に崩れ落ちた。


「あい分かった。ならば、ミネア嬢にも王宮滞在の許可を出そう。部屋は王太子妃の居室、ロベルトの隣室だ」


 だが、復活も早かった。


「何を仰る陛下! うちの娘はまだ十五、成人前です!」

「黙れ侯爵! お主は将来の娘婿と二年も同居したでは無いか羨ましい! ならば我も将来の息子の嫁と同居して何が悪い!! 余だってお義父様と呼ばれたいっ」

「最悪だ!!」


 今度はミネアの父侯爵も崩れ落ちた。こちらは復活しそうにない。


「最高です、父上」


 ロベルトがキラキラスマイルを父親へ向けた。陛下は嬉しそうだ。


「父の元へ戻ってくれるか?」

「ええ、勿論」

「父を嫌ってはいないか?」

「まさか。大好きですよ、父上」

「やったぞ世界! 余は息子に見捨てられておらなんだ!! 感謝するぞ、ミネア嬢。我が娘。ささ、二人ともこちらへ来るが良い」


 完全に復活した国王は歓喜しながら両手を天へ突き上げ、飛び跳ねんばかりに踊ってからいそいそと王宮馬車へロベルトとミネアを招いた。


「お荷物は追って送るわね〜。今日中に着くようにしておくわ〜」


 ミネアの母がにこやかにハンカチを振りながら送り出してくれる。あの人はいつだって順応性が高い。高過ぎる。


「うわあああああ娘えええ婿おおおおお! 私の娘ぇ……娘婿ぉ……うっうっ」


 ロベルトとミネアをいきなり奪われる形となった侯爵は大泣きしている。ガチ泣きだ。子供達を奪われ引き離される親の慟哭だった。

 馬車に乗り込んだロベルトが窓から顔を出して、そんな侯爵に声をかけた。


「義父上、こまめに顔を出しますからどうか泣かないで下さい」

「義父って呼んで貰えたあ……」

「良かったわねぇ」

「ミネア、ミネア……行く前に父に何か言っておくれ……」

「お顔を拭いて下さい」


 そもそも、この号泣侯爵だって仕事で毎日王宮へ出勤している。しかも侯爵邸から王宮まで馬車で僅か十分である。すぐそこに見えている。

 なんだこの茶番は。

 ミネアは始終チベスナ顔で茶番を受け流し続けた。




 こうして王宮へ戻ったロベルトは元から優秀だった事もあり、ミネアと言う名の精神安定剤を傍に置けるだけあって遺憾なく能力を発揮した。

 それこそ勇者召喚の主軸を担い、あまつさえ勇者の第一補佐を任じられるほどに。


 そして遂に勇者召喚の儀に適した月の巡りが来月であると判明し、準備も佳境に差し掛かったある日。ミネアはロベルトに前世の記憶を告げた。


「……私が、君を捨ててその勇者をとると?」

「そういった未来も有り得るという可能性のお話です。勇者様の政治的力量次第では私は側室となる事も有り得ましょう。けれどそれだけはお断り致します。貴方が勇者に少しでも心を移したと私が判断したその瞬間から、私は二度と貴方には会いませんし力もお貸し致しません」

「仮定の話とは言え愉快なものではないな……。私が信じられないか?」

「世界を救う勇者に求められた時、それを跳ね除ける事など世界中から許されないでしょう。けれど、それでも、私は貴方が誰かと想い合う姿など決して見たくない」

「ミネア……」

「だから貴方達がどうなっているのか情報の入らない地へ行き、そこで次の方を探して幸せになります」


 その一言でロベルトは危うく闇落ちするところだった。

 最愛の女性が自分の元を去って他の男を選んで幸せになるなど、想像上でも許せないし有り得ないし許さない。例え話でも許さない。


「よし、結婚しよう」

「はい?」

「その勇者がつべこべ言ってこられないように結婚しよう。勇者召喚の直後に、勇者に見せ付けるように結婚しよう。法も制定しよう。跡継ぎに恵まれず、傍系にも跡継ぎが居ない時のみ側室を認めると。愛妾など持っての他だ。そんな国王は去勢一択」

「結婚後に心変わりされる方が残酷です」

「君が他の男とどうこうなる可能性がある方が問題だ。成約魔法でも何でも使おう。私の生涯の伴侶は君だけだ。例え子が出来なくとも構わない、永遠に君だけだ。万が一……いや、億が一……いや、兆が──」

「キリが無いので早く次へいってください」

「う、うむ。とにかく、君が話した通り私が心変わりをしたらすぐに亡き者にしてくれて構わない」

「命をかけないで下さい重い」

「それくらい私には君しかいないのだと分かってほしい。勇者は世界を救うかも知れないが、私を救ってくれたのは君だ」


 その言葉にはミネアも素直にときめいた。そして、最後までロベルトを信じようと自然と思えた。

 信じられなくなったら捨てるまでだ。






 だからこの事態は解せない。

 乙ゲーでは召喚された主人公はロベルトと同じ十七歳だった筈だ。それがどうして幼女趣味だなんて誤解を受けたのかまるで分からない。

 何かズレでも起きたのか。早めにヒロインを召喚してしまったのだろうか。


 召喚の儀には攻略対象である王太子ロベルト、大魔道士レオナルド、近衛騎士ラングディート、賢者セウの四人が揃い踏みだ。

 そんな中で王太子をロリコン呼ばわりだなんて、全員のヒロインに対する好感度が一瞬で地に落ちるに決まっている。何をしているんだ勇者、何を言っているんだヒロイン。一体どうしたんだ主人公!



 大混乱のまま辿り着いた儀式の間。その門前で警備に当たっていた衛兵はミネアの姿を認めると、まるでこの世で唯一の希望を見付けたかのような顔を向けてきた。

 ミネアは勘弁してほしかった。期待し過ぎである。流石にこの事態を解決する方法など、この短時間でなんてまるで浮かんでいない。


「儀式の間へはロベルト様が出て来るまで何人足りとも立ち入ってはいけないと聞いているけれど……良いのかしら?」

「お待ちしておりました。王太子殿下も出るに出られない想定外の事態です。何卒、何卒宜しくお願い致します」


 丁重に頭を下げられてしまった上に、ご丁寧にも観音開きの大きな扉を両側から開けられてしまった。覚悟するしかないようだ。

 小さく息を吐き出し、軽く呼吸を整えながらミネアは正面を見据えた。そして足を踏み入れた儀式の間。

 勇者召喚の魔法陣の中心。


 そこに居たのは、紛れもなく前世の妹だった。




悪役令嬢の生い立ち説明回終わりです。

次はヒロイン視点に戻ります。

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