1.勇者召喚と
勇者視点です。
気付いたら知らない所に居た。周囲をぐるりと見知らぬ人達に囲まれて。
武装した人達とローブを纏った人達だ。
武装した人達は全員が兜で顔を覆っているし、ローブを纏った人達なんてフードを目深に被っているので本当に何も分からない。
一言で言うと、全くどんな人達なのか分からない奴らに囲まれている。
泣いても良いと思う。何これ。こわ。
ここはどこだろう。
大勢の武装集団が恐ろし過ぎて視界に入れたくない。でも目を瞑るのも怖い。背後から襲われそう。
どうしようもなくて脱力するように俯くと、座り込んでいる自分の膝が見えた。そこでやっと自分がどんな体勢なのか自覚したくらいには混乱している。
けれど、その座り込んでいる床に描かれている謎の文字とサークルを見て、何だか不思議な気分になった。なんだこれ。
いや待てよ。どこかで見た事ある。
これは「オレの前世は異世界の大魔道士だったんだ」とか言っていた山田が、テストの空白欄に描いていた魔法陣とかいうやつじゃないか? 凄い似てる。
そのテストで前代未聞の最低点を叩き出した山田は、母親に漫画もゲームも没収されて大泣きしていた。確か期間はテストで平均点を取るまで。
平均点で良いとか。山田のおかんは本当に優しいな。
ラクガキしてる暇があったら問題の一つでも解けば良かったのに、本当に山田は意味が分からない。
いや、山田だけじゃない。中学生になってから変な事を言い出す男子が増えていた。だけど山田は小五の終わり辺りから変だったから、山田みたいになってく男子が増えてたって方が正しいかも知れない。
女子の間ではそれを「男子の山田化」と呼んでいた。
「ようこそお越し下さった、勇者殿。名をお伺いしてもいいだろうか」
見目麗しい男性がキラキラスマイルで手を差し伸べてきた。
なんて神々しいのだろう。目が潰れそう。
「良いわけが無いですよね。フツーに」
笑顔が固まった。
でもそんな事を気にしたり気遣ったりするものか。当たり前だ。だってこれは明らかに誘拐でしかない。
誰が誘拐犯なんかに個人情報を教えるか。
こちとら小学校の頃から学校でも家でも散々言われているんだよ。知らない人に自分や家族の事を教えてはいけません。インターネットは便利で怖いものです。ってな。
ネット上の顔すら分からない他人より目の前の顔は分かっている誘拐犯の方がヤバいと思う。
「私は勇者ではありません。中学生です」
義務教育すら終えていない子供を、保護者の許可どころか本人への意思確認すらなく、見知らぬ土地へ連れて行くのは只の誘拐で完全に犯罪だ。
主犯はこいつか。
「これは……ミネアから聞いていたのと異なるな。いや、容姿はおおよそ合っているが」
一人で何をぶつくさ言っているこの誘拐犯。
「そんな犯罪者を見るような目をしないでくれ。私はこの国の王太子、ロベルトだ。そなたの意思とは関係無くここへ呼び立ててしまった説明をさせて欲しい」
誘拐犯・ロリコンロベルトが何か言ってる。
「…………何か言いたい事があるなら言ってほしい」
「ロベルトさんのロはロリコンのロですか?」
「ロリコン、とはなんだ?」
「性愛対象が幼女限定」
「違う!! そもそも私には相愛の婚約者がいるし、その彼女とは一つしか違わない!」
「婚約者が誘拐犯とかめちゃめちゃ可哀相そのお嬢さん」
「ゆっ……いや、そうだな。貴女にとっては我々は誘拐犯でしかないだろう。けれど元の世界へ戻る手立ても勿論あるし、ここに居る間の衣食住は私が責任を持つ。どうか話を聞いてはもらえないだろか」
「嫌っすね」
話をして許可を得てから連れてくれば良いのに、連れて来てから話を聞いてくれとかそれなんて強制イベントだよ。
キラキラ王子の絶望顔を初めて見たけれど、いやそもそも王子という人種を初めて見たのだけれど、中々笑えるなーと思いながら床の変な文字を指でなぞった。
山田があのテストの空欄に描いた魔法陣もこんな感じだった気がする。
細かい所までは覚えていないし、英語すらまだまだ慣れていない私からしたら英語より更に見慣れない文字なんて覚えられない。
あんな不思議な文字を考えられるか、もしくはどこぞの古代文明でも調べて覚えたのか。そのどちらなのかは分からない。でも、山田は変な奴だけど、それでもコンパスや定規も無くてあんなに綺麗に描けるのは凄いなーと思った。
ここの魔法陣も同じような文字だ。
そして、同じような定規で測ったような配列とコンパスで描いたような綺麗な円。
「これを描いたのは大魔道士さん?」
「おお、流石は勇者。分かるのか? レオ、こちらへ」
いや、分からんけど。全部、山田の受け売りだけど。まさかの正解だよ、ウケる。
秒で復活したスマイル王子が誰かに声を掛けた。
ローブを纏った人が一人、静かに王子の傍へ進み出てくる。
「彼がこの魔法陣を創り上げた大魔道士だ」
紹介された大魔道士さんはローブのフードを取ってからまた静かに会釈をしてきた。
「貴方は山田ですか?」
「いいえ、私はレオナルドです」
なんだダ・ヴィンチか。
日本人向けの英語の教科書みたいなやり取りは少し笑えたけれど、そんなやり取りの面白さよりもダ・ヴィンチの名前のがっかり感が勝った。一文字も合ってない。
「あ、あの……私の名前が…………何かお気に触りましたか?」
「いえ。なんかちげーなってだけです」
「なんかちげえ……」
ダ・ヴィンチもめちゃめちゃショックを受けた顔になった。隣にいる王子が気の毒そうにそっとダ・ヴィンチの肩を叩いている。
見渡してみると武装集団も「あーあ……」と言いたそうな空気だ。
なんだこれ。あれだあれ。
お父さんが「昔好きだった番組なんだー」って観せてくれた、とある海外のとある一家のシチュエーションコメディの雰囲気と一緒だ。
ちょっと怖くなくなってきたぞ、こいつら。
それなら良いよね? ちょこっとくらい文句言っても良いよね?
ちょっと文句言うくらいなら沢山言っても気が済むまで言っても良いよね?
全員、そこ座れ、おら。
次は悪役令嬢視点です。