『Ⅶ :長蛇2』
「…⁉な、なんだあれは⁉」
「おい、どうした………っ⁉」
ガタッと音を立てて白衣の男が立ち上がった。
それを見て他の白衣の大人達も、男が見ているモニターに視線を向け、彼と同じように絶句する。
入団試験の様子が映し出されているモニターの中の一つに、巨大な大蛇の凶獣が映し出されていた。
「どういうことだ⁉あれは少なくとも第4区域級の化物だぞ…!」
「今すぐあのカメラの位置を調べろ…‼」
監視室内が混乱に陥る。
その瞬間モニターの映像が揺れと共にフッと暗くなった。
「くそ!しまったカメラを破壊された…これでは試験所では無い‼…おい、中止だ。今すぐ試験を中止しろ…!!!!」
「…私が様子を見てきます」
黒い制服に身を包んだ男は手袋を嵌めながらそう申し出た。
「…しかし緊急事態とはいえ招待客の桐王くんに行っていただくのは…こちらの問題ですので」
黒い手袋を嵌め終えた男は出口のドアの横にあるスキャナーに手をあてた。
「ご心配には及びません。私達としても将来有望な芽が摘まれるのは避けたいところですので」
ドアが横にスライドし開く。
「他のヴィクテマの団員にも連絡が取れ次第、早急に凶獣は退治いたしますので。あなた方は防壁外に一般人が立ち入らないようにしてください」
その濃い瑠璃色の髪と同色の瞳で前方を睨みつけるように細めると、男は監視室を後にした。
++++++
身体が動かない。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだと内心自分を嘲笑する。
すぐ横の地面から大きな揺れと音と共に黒い何かが飛び出す。
凶獣の尻尾だと瞬時に気付いたものの、緊張と恐怖で咄嗟に足が動かない。
尻尾は後方に大きく撓ると、勢いよく振り下ろされた。
「理玖っっ!危ない!!!」
東君の声と同時に大きな衝撃波が襲い、大きく吹き飛ぶ。
「ガハッ‼」
背中に激痛が走り、肺の酸素を大きく吐く。
僕は瞑っていた目を開き、現状の把握をしようと辺りを見回す。
あたり一体の木は衝撃で根っこから吹き飛び、地面は隆起していた。
舞い上がる砂埃で視界が悪い中、少し離れた所で倒れている東君が目に入る。
「東君!!大丈夫⁉」
「ああ…大丈夫だ。」
「よかった…」
「理玖!お前頭から血が出てるぞ…」
右手で頭を触ると、掌に真っ赤な血がついていた。
「イテッ…本当だ」
その時、東君は何か大事な事に気づいたのか、突如焦り出した。
「どうしよう…燃料瓶が割れてる」
そう震える声で言った東君の右腕に視線をやると、彼の植物軍器は燃料を失い萎れていた。
僕は持っていた予備の燃料瓶を渡そうと自分の腰を確認するが、そこには壊れた金具しか付いていなかった。恐らく、吹っ飛んだ拍子にベルトが壊れ、付いていた燃料が何処かへ飛んでいってしまったのだろう。
しかし、今僕が使っている燃料瓶はまだ使えそうである。
どうせ僕が植物軍器を展開していても意味ないし、東くんに渡そうか…
「なぁ…理玖。作戦があるんだけど」
そう今にも消えそうな声で僕に話しかけた彼に耳を傾ける。
「どうしたの…東君」
「俺が助けを呼んでくるから…その間お前には凶獣を引きつけておいて欲しいんだけど…」
「え……?」
僕は思わず耳を疑う。
「……… 」
彼は俯き僕とは目を合わせなかった。
彼の提案に少しためらったものの僕は頷いた。
「わかった。任せて」
僕は弱いし体力もないから長い間引きつけるのは無理だろう。しかし、少しでもできることがあるのならば力になりたい。
馬鹿かって…?そんなの分かってるよ。でも、彼の事だ…。きっと何か作戦が…すごい作戦があるに違いない…。
深い事は考えずにやろう、とりあえずやろう…!
「よし…!」
立ち上がり地面に落ちていた石を拾うと、今ある力を振り絞り目の前の大きな蛇に向かって投げた。
石が凶獣の頭部に命中すると、凶獣は怒りの形相と共に視線を僕に向ける。
シャァーーッ!!
「化け物め!こっちだ、こっち!
」
蛇が地面に潜り僕の方に向かってくるのを確認し、僕は慌てて振り向き走り出した。
「ごめん……」
その時、東君がそう呟いたような気がした。
後ろを振り向くが、俯いている彼の表情を確認することはできなかった。