『Ⅵ :長蛇1』
試験開始から30分後、僕たちは一つ目のバッチを発見した。
「よし、やっと1つか。取り敢えずこれは俺が持っといていいか?」
「もちろん」
僕たちは人生最初の凶獣との遭遇後、2回もアリの凶獣と遭遇したが、東君が全て倒してくれた。
悔しいが落ちこぼれの僕に何かできる訳もなく強いて言うなら凶獣の位置を戦闘中に何度か教えたくらいだ。
「じゃあ理玖の分も探しにいくか」
「そうだね……」
疲弊から少し震える体に、僕は鞭を打ち東くんを追う。
「大丈夫か?疲れたよな、少し休もう」
「ごめんね、迷惑かけて」
「気にすんなよ、ちょうど俺も燃料を交換しなきゃなと思ってたところだし」
本当に東君には頭が上がらない。
僕はここまで何もしてないのにも関わらず正直体力の限界が少し前から来ていた。植物軍器を展開しているとなぜか体力がもたないのだ。
「うん、ここなら凶獣はこないだろ」
木の陰になっていて周りからはよく見えなさそうな場所を探し腰を下ろす。
僕がぼーっとしている横で東くんは水分補給している。
植物軍器は太陽光の燃料瓶から太陽の光を吸収するだけでなく、植物軍器と腕を繋ぐ蔦のような物を通して僕らの体から水分も燃料として吸収する。
そのため植物軍器を使用する上で太陽光の燃料の次に重要なのが水分なのだ。
「あ〜、水うめ〜。理玖もいるか?」
そう言った東君は僕に水筒を突きつけるが頭をふりいらないと伝えた。
その後、空を見上げていた僕らの間にしばらく沈黙が続いたが、暫く経つと東君が沈黙を破った。
「いや〜意外と街の外も明るいんだな、なんも見えないくらい真っ暗だと思ってたよ」
「でもここは第一区域だからね、もう少し奥にいくときっと真っ暗だよ」
「でも本当にこうして外に出れるとはね、なんかまだ試験終わってないのに解放されたって感じだ…」
僕たちが今いる第一区域は都市の周りのことを指し、比較的安全で整備がされているためライトを持参しなくとも問題なく目視することができる。
しかし、都市の外は第一区域から第七区域まであり地球の裏側に行けば行くほど暗さと寒さが増す。
さらに奥には凶暴な凶獣が生息していると言われており、130年前の悲劇から未だ人類は第6区域までしか到達したことがない。
ヴィクテマの中には調査や太陽光を貯蓄する目的で、太陽の当たる北半球にも行く部隊も極小数ながらあると聞いたことがある。
しかし北半球は化物と化した植物が生息しており、相当実力のある部隊しかその任務を与えられないとかなんとか。
僕はもっといろんなことが知りたい、今話したことも施設で教えられたことでありどこまでが真実でどこまでが嘘なのか今の僕には分からない。
だからこの入団試験はたとえ結果がついてこなくても死ぬ気で頑張ろうとそう決意したのだ。
それなのになんだ、この有様は。東君がいなければ僕はもうとっくに死んでいる。
「よし、そろそろ行こうか…」
「ん!理玖、もういいのか?」
「他の人にバッチが取られる前に急がなくちゃね」
「よし行くか〜」
そう言いながら彼は立ち上がりグイッと伸びをした。
僕も上がろうと腰を上げかけたその時だった。
「⁉…なんだ…地震?」
地面からまるで余震のような、しかし少し違う、体験したことがないような振動が手に伝わってきのだ。
そして僕に考えさせる暇もなく、その揺れの原因はすぐに目の前に現れる。
ズドァーーン!!
大きな地響きと共に巨大な何かが地面から突き出る。
「っ!…あ、東君後ろ…‼」
「どうした理玖!」
僕の声に反応し、すぐさま後ろを振り向いた東君は驚きに一瞬表情を固める。
「…はは。な、なんだよあれ…」
声が震えるのを必死に抑えながら言った彼の足は震えている。
地面から体を出している部分だけでも9mはあるであろう凶獣はその蒼い眼光を僕らに向ける。
「蛇の凶獣…?」
僕の声で我に帰った東君は、
「おいおい、こんなのいるなんて聞いてねえぞ…」
そう、震える声で呟く。
目の前に現れた化物はその蒼く鋭い目で僕たちを睨視した。