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『Ⅳ :通知』

ピピピ…


部屋に鳴り響く目覚まし時計の音で僕は目を覚ました。


目覚ましを止め時間を確認する。


「まだ6時半か…」


もう一度布団を被り二度寝をする体勢を整える。


普段は6時半起きなのだが今日は8時までに朝食を済ませればいいのでわざわざ起きる必要はないのだ。


しかし妙に寮が朝から騒がしい。


普段なら静かな時間なのだが、今日は夕方のうるさい時間帯かそれ以上人声が聞こえる。


「はぁー…これじゃ寝れないなぁ」


そうため息まじりに言った僕は二度寝を諦め渋々朝の身支度を始める。


何故騒がしいのか少し気になったものの、それを聞く相手は当然いない。


いつもより騒がしかった寮の食堂で朝食を済ませた僕は少し速いが学校へと向かった。


いつもと同じ渡り廊下歩きながら今日も暗い空を照らすように美しく光っているマルサリタワーを眺めていると突然誰かに肩を組まれた。


「よう!おはよう、理玖りく


「…おはようあずま君」


今日も彼は相変わらずニヤニヤしながらメガネを光らせる。


「いやー、まさか入団試験が1週間後だとはね…以外と急だよな」


「えっ…そうなの?」


「は?お前メール確認してねーのかよ」


そう言われた僕はスマホを取り出し、メールのアイコンをタップする。


そして未読のメールの中から『入団試験のお知らせ』というメールを探し出し、開いた。



<入団試験の詳細>


10グループに分けて試験は順番に行われ、今日から1週間後の8月24日午前8時から二日間にわたってGroup1から順番に行われる。


清白理玖

-Group10-


[試験内容]

当日発表


[集合時間]

8月25日午後2時に訓練所B-1


[所要時間]

90分


[試験会場]

都市防壁外第一区域




「お!俺と一緒のグループじゃん」


横からスマホの画面をのぞきこんでいたあずまくんは嬉しそうに僕の背中を叩く。


「そうなんだ…!…でも何で今年の試験はマリサントラの外で行われるんだろう?」


この都市の防壁外で試験が行われるということはつまり本物の凶獣ランデルと遭遇する可能性が高いということだ。


「そこなんだよ!で聞いた話によると第一部隊隊長の桐王きりおう実弥さねみが見にくるとか何とか」


「ほへぇ〜」


僕は驚きのあまり思わず間抜けな声を出す。


一時的ではあるものの、この都市の外に出れるということにも驚きなのに、ヴィクテマの総隊長にしてこの都市の幹部の一人である桐生きりおう実弥さみねさんがこんな無名の、それも施設の外にすら出たことのない僕たちひよっこを見にくるなんて…


「だから今日は朝から騒がしかったのかぁ」


「まぁ、でも俺はその噂は誰かが言い出したデマだと思ってるけどな」


「…うん、流石にそうだよね」


「でもこんな形で外の世界に出れるなんてな、吃驚びっくりだよな〜」


なんてこと無いように言うあずまくんは心底待ちきれない、とでも言う様にソワソワしている。


まぁ、無理もないだろう。


外の世界に出るということに憧れているのは何も僕だけでは無いのだ。


この施設内の子供達のほとんどは外に憧れや夢を持っているし、戦う力を持たない一般人でさえも外に憧れを抱いている事は珍しくない。


この都市の外に一歩踏み出す、というのはそれほど困難なことであり、限られた人以外のほとんどは憧れのまま終わってしまうのだから。


「試験内容にもよるけど、いざ本物の凶獣ランデルと戦うと思うと少し怖いよな…」


「ああ、確かに不安がないと言えば嘘になるが…もしそうなったら俺が理玖のこと守ってやっから心配すんな」


「ありがとうあずま君、でも大丈夫だよ。同じグループだけど君は僕のことは気にしないで試験に集中してね」


「じゃあ、ライバルだな!」


そう言われた僕は驚くと同時に少し嬉しくなった。


「ライバルか…」


お世辞と分かっていても対等なライバルだと言ってくれる人は居なかった僕にとって、その言葉の響きに胸が踊るようだった。


「何、ニヤニヤしてんだよ!」


彼はもう一度僕の背中を勢いよく叩く。


「イテッ…!」


「二人で合格して絶対出るぞ、ここから…」


「いやでも、僕には少し難しいかな〜。ハッハッ」


僕は顔に笑みを浮かべる。


「そんな事ね〜よ」


「いやいや、流石に無理だよ。232位中232位だよ」


理玖りくはつえーと思うけどな。俺は…」


彼は前を向いたまま続ける。


「こんな所で、しかも底辺だとか言われて。文句も言わず、ずっともがいて…。俺ならとっくに折れてるよ。何もかも…」


「僕はしんどくないよ。ほら、この笑顔を見て」


僕はまた笑みを浮かべる。


「じゃあ、ぜってー二人で受かるぞ」


「そうだね……」


東君は何も言わず急に足を止めた。


すると、僕の肩を掴んで顔を近づける。


「絶対大丈夫!やり遂げて笑え、心から……笑え!!」


その時、僕の顔に映し出された偽笑みが消えた。


まるで真っ暗な心に光が差し込んだ感覚…。


彼なら僕を引っぱてくれる…。いつでも背中を押してくれる。


試験に出れば大怪我を追ってしまうかもしれない、恥をかくかもしれない、ヴィクテマになれないかもしれない、いやむしろなれる確率のほうが低いだろう。


でも、やってみよう。今回は…。


あずま君のその一言は、簡単で…僕には難しかった最初の一歩を踏み出させるような、そんな一言だった。


「おい!先行くぞ〜、理玖りく


彼に付いて行こう…。僕を一人の人間として認めてくれる彼に…。



例え、どんな結末が僕を待っていようとも…

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