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『Ⅰ :常況1』


2178年、僕たち人間が住んでいた地球は何らかの原因により太陽系の軌道から外れ, それに伴い地球の地軸の角度は23.4°から90°へと大きく変化した。


幸い地球は太陽からの距離を保ったため、地球が太陽の光を失うという事態は免れた。


しかし地軸の変化と公転の消失により北半球にしか太陽が当たらなくなってしまう。


この出来事により人間だけでなく昆虫や動物、地球上全ての生命は危機に直面した。


そんな中、北半球に生息していた植物だけは四六時中太陽を浴びれるようになり急速な成長を遂げる。


130年後の現在、2308年。


力をつけすぎた植物から身を守るため、人類は太陽の光を失い植物が絶滅した南半球に避難した。


そして赤道付近に三つの都市を設立したのである。


そのうちの一つである此処ここマリサントラは太陽の光に直接照らされることは無い。


それでも技術の発展により人々は問題なく生活を送っている。


この都市のほとんどの人は太陽の存在自体は知っているものの、本物の太陽は見たことがない。もちろん僕もその一人だ。


だからだろうか?ふとした時にかつて世界中を照らしていたという太陽に思いをせてしまう。


あの窓の向こう側で淡黄色たんこうしょくの宝石のようにキラキラと暗闇の中できらめいているビルのイルミネーション。


太陽はあそこに見えるイルミネーションより明るいのだろうか?


そんなことを考えながらも、上の空でスタスタと真っ白な廊下に歩を進める。


「おーい、聞いてるか〜」


「おーい?」


何かが肩を掴むような感覚に夢から覚めたように我に返る。


横を見ると少し見上げなければいけない程背の高い、メガネをかけている焦げ茶色の髪をした男がいた。


彼は不満そうな表情をその涼し気なかんばせに浮かべ、僕の肩を掴んでいる。


「どうしたんだ失恋した後の中学生みたいな顔して?」


「失恋なんてしてない…そもそも好きな子なんていないのに失恋も何も無いだろ…」


とっさにそう僕は答え、少しわざとらしいため息と共に呆れた表情を浮かべてみせる。


黙っていれば知的ちてきに見えるその容姿とは裏腹に、終始ニヤニヤと口角を上げてアホづらをしている彼はあずま亨哉こうや


落ちこぼれである僕なんかにも分けへだてなく接してくれている変人の一人。そしてこの施設で唯一の友人?のようなものだ。


「今日の朝ごはんのヨーグルトめっちゃ変な味したよな!、なんかカブトムシみたいな」


「そうかな?僕は昨日のカレーより全然ましだったと思うんだけど…」


「いや、それはお前がカレーが嫌いだからだろ!」


「いやいや、昨日のカレーは特に酷かったからね」


「お前もあのヨーグルトの上に乗ってた消しゴムみたいなナタデココ食べたろ?」


「僕のにはナタデココなんて乗ってなかったはずだけど…」


「何だと?ずるいぞお前!食べたらわかる、あれはこの施設全員にトラウマを植え付けたことだろう…!」


「あははっ、そんなに酷かったんだ…」


見た目だけなら優等生にしか見えない容姿でこんな馬鹿みたいな事でムキになっている彼を見ていると、つい笑いが込み上がってきてしまう。


理玖りく、お前今日は元気そうだな?昨日は目が死んでたのに」


「今日はどちらかというと憂鬱何だけど…」


「まぁそうだよな〜、今日は実技訓練の日だからな」


あずま君は問題ないでしょ?僕なんかこの前やっと前回の怪我が完治したのに」


「怪我しすぎて年齢重ねるごとに治るの早くなってたりして…」


「それは無いんじゃないか?むしろ遅くなってる気がするんだけど」


「まぁでも仮想かそう凶獣ランデルだと言っても攻撃されると流石に痛いよな〜」


気づくともう廊下の突き当たりに来ていたようだ。


「じゃあ俺こっちだから、また後でな」


あずま君はそう言うと左に曲がって行った。


「ああ。また後で…」


それを少し眺めてから僕は右へと曲がっていく。


「…はぁ〜」


思わずため息をついた。


130年前の地球の変化を機に動物が進化し続け生まれた"凶獣ランデル"。


僕たち子供はこの都市を守るために結成された集団、"ヴィクテマ"になるべく毎日訓練をしている。


しかし今日はその中でも最も嫌いな実技訓練の日。


本来なら仮想かそう凶獣ランデルを倒すはずが、落ちこぼれの僕は毎回ズタボロにされ最後には教官きょうかんのストップがかかるのが恒例なのだ。


今日も自分からやられに行っているようで気は進まない。


それでもこの都市の外に出るという夢を叶えるため。重りを付けたかのような重い足を引きずりながら、この果てしなく長く感じる廊下を歩む。


訓練所の前に到着した僕は、ドアの横に付いているスキャナーに手をかざした。


スキャナーがあわく光るとドアのロックが解除され、プシューという音と共にドアが開く。


逃げ出したいと叫ぶ心を必死に抑えつけ、僕は訓練所の中へと踏み出した。

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