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『XVI :出発』

俺達はトーストをくわえ、バタバタと支度をしていた。


「りふ、おほしへっへいっはひゃん!(理久、起こしてって言ったじゃん)」


「あふまふんはめははひはへはほほもっへはのに(東君が目覚ましかけたと思ってたのに)」


クリストルタワーに引っ越してきて二日。


理玖りくと同じ部屋になったのはいいものの俺達は早速…いや、またしてもピンチを迎えている。


「10時まへ後10分、はんばれ理久!」


「ひょし行ほう!」


理玖はトーストを口の中に詰め込むと、俺たちは弾丸のように部屋から飛び出していった。


まさか初任務の日に目覚ましが鳴らないとは……自分の初制服姿を鏡でもっと眺めたかったがそれはまた今度にするしかないようだ。


俺達は全速力で廊下を駆け抜け、エレベーターに乗り込む。


一旦足を止めた俺達は深呼吸をし、落ち着きを取り戻した。


「プッ、あははははっ!」


突然隣から聞いたこと無い甲高い笑い声が聞こえ、横を向くと理玖が俺の顔を見ながら爆笑していた。


「ははははっ!あず…東君、顔…に付いてる」


慌ててエレベーターに付いていた鏡で確認する。


顔に残っている歯磨き粉が両眉毛を繋ぎ、額には大きな丸が形成されていた。


「ははははっ!教科書に載ってた仏像見たい」


急いで顔の歯磨き粉を拭うが、相当面白かったのか理玖はまだ腹を抱えている。


「お前そんな独特な笑い方するんだな」


こんな楽しそうにしている理玖は初めて見た。少し前では考えられなかった表情だ。


理玖もこんな風に楽しそうに笑うようになったんだと俺は少し嬉しくなった。


「行くよ東君…」


エレベーターが開き、俺たちは集合場所への全力疾走を再会する。

一分ほど走り続け、なんとか集合場所であるタワーの前に到着した。


「はー…はー…すみません遅れました」


俺は膝に手をつき、乱れた呼吸を整える。

時計は確認していないが、恐らく三分ぐらい遅れただろう。


「初任務で遅刻とはクズ白のくせにいいご身分だ…」


天羽あもうは舌打ちをする。


「大丈夫…ではないけど、2分遅れならギリギリセーフかな」


西園にしぞの先輩は時計を見て言う。


しかし先輩は何処か他の事に気を取られているようですぐに周りを見渡し始める。


顔をあげた理玖があることに気付く。


「あれ?雨夜あまや先輩がいないみたいですけど」


「はぁ〜…」


ため息をついた西園先輩は呆れた表情で、


「昨日念を押したら、"後輩の前で遅刻はしない"とか言ってたから流石に大丈夫だと思ったんだけど…」


「雨夜ちゃん…私が…出る時に…トイレの中から…先に行ってて…って…言ってたから…すぐ来ると思ったんでけど…すみません…私がちゃんと連れてくれば…」


消え入りそうな声で言った三芳野みよしの先輩はすごく申し訳なさそうである。


「まぁ大丈夫じゃね、すぐ来るでしょ」


先輩のフォローをしたのは壁に寄り掛かっている天羽だった。


「お前そういうこと言えるんだな。ちょっと意外だわ」


俺にそう言われた天羽はこちらを一瞥すると、


「黙れ、東…」


素直に褒めてやったのに何故あいつはすぐに反抗的になるんだか。


「まあ…電車の時間に遅れるから先に出発しようか。途中で雨夜も追いついてくるだろうし」


俺達は外壁に向かって歩き始めた。



都市で一際明るく光るクリストルタワーの灯りに背中を照らされ、前方に浮かぶ自分の影を見つめる。


歩を進めるに連れて段々と人気がなくなり、再び都市外に出るという実感が心を不思議な高揚感と不安で満たす。緊張からか背中を汗が一粒伝っていった。


「いやー昨日はよく眠れなかったよ」


理玖は歩きながら話始める。


「緊張で目が冴えちゃって…」


「理玖お前緊張してんのか、だせーな」


俺は笑いながら、理玖の背中を叩く。


「イテ…!」


彼は反動で少しバランスを崩し、俺の方を向き直す。


「東君は怖くないの?」


「まぁ…ちょっとだけな」


内心人の事を言えないなと思う。


しかし、理玖に心配をかけるわけにはいかない。

前回みたいなことは二度とごめんだ。


「うんうん、わかるよ〜清白殿。最初は緊張するよね、私もそうだったよ〜」


後ろを振り向くとうんうんと頷いているツインテールの女子が後ろを歩いていた。


「雨夜先輩!いつの間に」


「シーー!」


驚きで少し大きな声を出した理玖に慌てて先輩は人差し指を唇に当てる。


急に先頭の西園先輩がピタリと足を止めこちらを振り向く。


「あまやーーーー!!!」


「ケピっ!」


鬼のような視線に赤いオーラを出している西園先輩に雨夜先輩は飛び跳ねる。


「お前、みんなを待たせて置いてなに何事も無かったかのように合流してんだ!」


「か…か、勘違いではないのか…?私はこの左目の能力で姿を消していただけで最初からここにいたぞ…」


雨夜先輩は目を泳がせ、滝のように汗をかきながら苦し紛れに言い訳する。


「落ち着け西園、お前はまだ私を認識できるレベルに達していなかったから気づかなかっただけだ」


言い訳に言い訳を重ねる彼女に隊長の威厳のようなものは無いのだろうか?


「はぁ〜、任務終わったら全員に奢りな」


ため息をついた西園先輩は彼女の発言を無視し、そう言い残すと歩き始めた。


「えっ、ぜんいん…、全員!奢り!?いち、にい、さん、し、ご、ろく、ロク…六。六人奢り!!!」


雨夜先輩は目をパチパチさせ、周りを見渡すと事の重大さに気付く。


「頼むよ〜全員は無理だよー。先週天使の輪を買って金欠なのぉ!」


先輩は泣きつくがそれを西園先輩は歯牙にもかけないず歩き続ける。


…こうして俺たちの初任務が始まる。






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