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『Ⅺ :新入1』


七色に輝く大きなビル。オレンジ色の電灯で染まる道路。

店からは光と声が溢れ出ており、上を向いても星は見えない。


あまりの人と情報量に僕は唖然とする。


理玖りくー、早く行かないと間に合わないぞー!」


「………やばい」


「確かにやばいよ。だけどこのペースで立ち止まっていたら本当に間に合わなくなるって!」


僕たちはクリストルタワーへ向かうべく街に足を踏み入れた。


しかし僕はこの光輝く街の美しさと迫力に圧倒されなかなか歩を進めることができずにいた。


「東君、なんか……やばいね」


「お前さっきから語彙力皆無かいむだぞ。確かに施設から眺めるのとは比べ物にならないけど…。流石に、本当に今回はまずいんだって!」


そう言いながら東君は地蔵のように固まっている僕を動かそうと思いっきり引っ張ったのだった。





そして僕たちはなんとか五角柱のビルの前に辿り着いた。


「これがクリストルタワー…」


クリストルタワー。ヴィクテマの拠点にして、この街の砦。全てのヴィクテマ団員がここに寝泊りしている。


緑の光線を出しながら他のビルとは一味違う雰囲気を放っているそのビルを目の前にして、忘れていた緊張が一気に戻ってくる。


警備員であろう中年のおじさんは僕らに気づくと中に入るように促した。


ビルの中に入ると25人ほどの見覚えのある人達が既に到着していたようだ。


「東じゃん、お前随分ギリギリだな。もう少し緊張感もてよ」


そう声をかけてきたのは施設の同級生の江上えがみ憲久のりひさ、彼も入団試験に合格しこのクリストルタワーへ召集されたのだろう。


「緊張はしてるって。遅くなったのは理玖をここまで引っ張ってきたからだよ。まじ大変だったんだからな…」


江上えがみ君は隣に立つ僕に視線を向ける。


まるでなぜお前がいるんだと言いいたそうなその表情に僕は思わず目を逸らすした。


落ちこぼれの僕が合格したことははすぐに施設中に広まり、どちらかというと悪い意味で話題になった。


今までそこに居ないような扱いを受けてきた僕だったが、昨日からは周りから疑念の視線や悪口を浴びせられているのだ。


『ゴッホん!!!』


唐突にマイク越しに聞こえたその声で一斉に全員が鎮まり、ステージの方を向く。


そこには長めの金髪を後ろで一つにまとめ、モデルのようなスタイルと整った顔の男がマイクを片手に立っていた。


『みなさん、こんにちは。第二部隊上杉うえすぎ班の班長である上杉うえすぎ真琴まことです。まず初めにヴィクテマ入団おめでとうございます!施設の中で十六年間訓練し、今その目標を達成した将来有望なあなた達とこれから共に戦えることを非常に嬉しく思っています』


彼は一息つき話を続ける。


『まずヴィクテマ団員として心に留めておいて欲しいことが三つあります。一つは自分の為ではなく仲間のために戦うということ。僕たちヴィクテマには約150名が在籍しており、第一、第二、第三と三つの階級に別れています。その中でも6〜8名の班に別れて任務を遂行します。つまり何が言いたいかというと、ヴィクテマは個人ではなく、チームとして行動する事に意味があると考え………』


何かを見つけたのか、彼は唐突に喋るのをやめた。


「………」


会場がざわつく。


話す言葉を忘れてしまったのだろうか…?

この人数の前で喋るとなれば無理もないような気がする。僕には絶対無理だ。


そんな事を1人で思っていると、


彼は急にステージから飛び降りた。


そして何かに取りかれたように人混みを掻き分ける。


一体何が起こっているのかという表情と共に全員が彼を目で追う。


すると、彼は紅の髪と黄金の瞳の少女の前で止まった。


「君の名前を聞いてもいいかい?」


「…紅林くればやしらんです」


それを聞くとキザったらしい仕草で彼は片膝をつき右手を差し出す。


「……!?」


「紅林さん。あなたはとても美しい、特にその瞳、イエローサファイヤいや…この世のものでは言い表せない。まさにホーリーエンジェルだ!!これは運命の何者でもない。僕と結婚してくれ!!」


彼は最後にウィンクをし決まったと言わんばかりの表情を浮かべた。


「はっ?」


周りはあまりの急展開に頭が追いつかず固まっている。


すると、


「オイコラ上杉〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」


大きな声と共にポニーテールの女性隊員が彼の顔面に飛び蹴りをかます。


「あんた見ず知らずの女の子にまたそんなこと言って!!何よりなんで途中でスピーチやめてるの!!与えられた役割ぐらいはたしなさいよ!」


顔を抑え地面を転がる男に向かって彼女はそう言うとマイクを奪い取る。


「あんたに任せた私が馬鹿だったは」


「イテテテ……。りんちゃん、嫉妬する気持ちも分かるけど流石にやりすぎだよ〜」


「嫉妬心なんてあるわけないでしょう!あんたが例え凶獣に食われても何も思わないわ!」


「それはひどいな〜〜。」


すると彼は彼女の手を優しく握った。


「僕が本当に愛しているのはりんちゃんだけだよ♡」


その言葉に先程までキリッとした表情をしていた彼女は急に顔を赤らめ手をモジモジしだす。


そして、さっきまでの威勢が嘘だったかのような小声で、


「し…知ってるわ、そんなこと。だけど、そ…そういうのは…二人っきりの時に…取っといて欲しいんだけど…」


などと言い出す。


あまりのグダグダ感に思わず僕はこれも演出の一部では無いかと疑ってしまう。


顔に靴裏の跡をつけた男と、その前でモジモジ体を揺らす女。


一体僕たちはさっきから何を見せられているのだろうか…。


恐らくここにいる全員がそう思ったに違いない。


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