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プロローグ


「今日もご苦労さん…!」


後ろから声が聞こえると同時に大きな衝撃が背中を襲った。


「わぁっ‼」


迫りくる地面に僕は咄嗟とっさに手をつく。じんじんと痛む掌とは対象的に、ツルツルとした床はひんやりとしていた。


少し痛む背中に思わず抗議するように見上げると、そこには金髪にエメラルド色の瞳をした少年が立っている。


彼はその猫のような目を細めると、地面に這いつくばる僕のかばんからお昼の唯一の戦利品であるメロンパンを取り出した。


「今日はメロンパンか〜、俺が焼きそばパンの方が好きなのは知ってんだろ?」


彼は不満そうにそう言うと、慣れた手つきでそれを自分のかばんの中にしまった。


「返してよ」などという言葉は出ない。出るわけがない。


1時間しか無い昼休み。そんな限られた時間の中、30分もかけて手に入れた僕の昼食は今日もまた彼の胃袋に収まるのだろう。


彼は興味を無くしたようにスマホを一瞥いちべつすると何か用事があったのだろうか、急ぎ足で何処どこかへ行ってしまった。


少し疲れた僕はゴロンと仰向けに転がり空を眺める。


地球が太陽系の軌道から外れてから130年、常に僕らの頭上に広がっている星空。

朝が訪れないこの街で、本物はこの星明かりだけ…。


この世界に適応出来なかった者は次々と消えていき、現在闇の世界で生きるのは人間と動物だけ。


太陽を失った植物はこの地域からはとうに消え去った。あるのは雑草や木だけ。


聞いた話によると昔は"花"と呼ばれるものもあったらしい。


「ひまわり……」


妙に脳に焼きついたその単語を、僕は意味も分からず今日も口にする。


人の名前?…思い出せそうで思い出せないこの単語は、呟くだけで少し気持ちを押してくれる気がした。


そんな事を考えていた時、不意に目に入った時計を確認すると、授業の開始が10分と迫っていることに気付く。


「…あれ、もうすぐ授業が始まっちゃうな」


立ち上がろうと上体を起こした時、僕の鞄から出たであろう茶色の封筒が目に入る。


…能力測定報告書。


そうつづられた封筒から飛び出している一枚の書類。



清白理玖     

         16歳   

          173cm/56kg

  体力F


  瞬発力E


  持続力F


  威力F


  反射神経F


  適性度F



総合   F        

             232位中 / 232位



一切驚きはない。


むしろ僕がいつも通りであることに安堵し、書類に手を伸ばす。


その瞬間、氷のような風がほおを斬った。

風に乗った紙は片翼へんよくを失ったはとのように空中を舞い、やがて地面に落下する。


そう、飛べない鳥に自由など無いのだ…




これは飛べない鳥が翼を生やす物語。



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