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7、学園教師 ファラット

オストワール王国では、約百年間戦争をしていない為、領地が増えていない。つまり、各貴族の長男は家を継ぎ、次男は、そのスペアであり、最後は長男のサポート役になることが多いが、三男四男にとっては、自分で道を切り開く必要があり、戦争がないので武勲も立てられず、自分の生まれた家のステータス以上どころか同等の生活をするには、なかなか難しい世知辛い世の中なのであった。


名家であれば、中央の官吏になり出世の道もあり、今の王になってから実力主義になっていったと言われてはいるが、それでもパイプのない普通の家の生まれでは、よほどの秀才でない限り、出世をするのはとても難しい。せいぜい中央の下っ端役人が良い所だろう。


地方という道もあるにはあるが、地方は地方で有力者の傍系でギッチリ囲まれている所が殆どで、縁もゆかりもない者には、やはり厳しい。あとは、後継ぎがいない家に婿入りをするというのも手ではあるが、そんな美味しい家はそうそう落ちていない。


この学園で教師をしているファラットも似たような境遇だった。

子爵の家の四男坊として生まれ、一族の中に中央政府に出仕している者はなく、長兄は家を継ぎ、次兄は長兄の領地経営のサポートに回っている。三男坊は、運よく学園で知り合った男爵家の令嬢の婿に収まり、自分は...というと、貴族学校の教師をしている。


昔から勉強は好きだったが、官吏になるほどの才はなかった。同じ境遇の者達には、王都で職が見つかっただけ良かったじゃないかと言われ、確かにそうだなとは思うのだが、自分より成績が悪かったはずの後ろ盾のある立派な家の三男坊四男坊は、今や自分よりも華やかな道を進んでいるし、他の自分の兄弟にも見劣りする。


つまり、ファラットは自分の現状にあまり満足していなかったのである。


そんな人生に閉塞感を感じていたファラットであったが、ある生徒に恋をすることによって、人生が開けたような気がしていた。


その生徒は、とある貴族の庶子で、長い事母親と一緒に市井にいたらしいが、貴族の家の後継ぎが不運にも事故で無くなった為、昔愛人だった女の子供に白羽の矢が立ち、その貴族の家に将来の後継ぎとして彼女は迎え入れられた。というおおざっぱな話を学園長から教職員達に話しているのを「頻繁にはない話だが、珍しくもない話だな」と思いながら、ぼーっとファラットは聞いていた。


そんな前情報を仕入れながら、いざ教壇に立ち彼女に実際に接すると、彼女はとてもチャーミングな女の子だった。笑顔も仕草もとてもかわいい。市井にいたせいか、「貴族慣れ」を全くしていなく、貴族社会に戸惑っている様子も可愛かった。


気がつけばファラットは、彼女を目で追うようになっており、他の生徒以上に彼女の手助けをしていたのだった。他の教師に、「もっと公平に」と言われることも度々あったが、彼女の立場が既に公平でないのだから、自分が「多少」嵩上げしてあげないと「公平」にはならないのだと反論していた。ついには、「もし、彼女と結婚したら、彼女の家に婿入り出来て、ついでに爵位も手に入るじゃないか!」とまで、色々な意味での下心が出始めた頃には、もう誰も彼を諫めるものは、いなくなっていた。

  

最初は、大人の魅力で彼女に好きになってもらえるのではないかと甘く思っていたが、実際はそんなに上手くいくはずもなく、彼女は、年相応の男性に興味を惹かれているようだった。最初は、この国一番の商家の息子、次は現将軍の嫡男、この前は宰相の後継ぎと仲良さそうに二人で話をしていたし、そして今は第一王子。しかも、最近入学されてきた第二王子とも仲が良いとかなんとか...。


なんだか、書き出すだけでもすごいラインナップだ。これでは、自分は全く太刀打ち出来ないとファラットは思ったが、いずれの家も彼女が釣り合えるような家ではなく、誰と付き合おうとも、彼女はいずれは捨てられるであろう。その時に、自分が優しく手を差し伸べれば良いとファラットは、勝手に算段していたのであった。


商家の息子と仲良くしていた時に始まっていたシャーロットへの嫌がらせも、将軍の嫡男と仲良くなった際には、ぴたりと止んだ。しかし、彼女が第一王子と仲良くし始めると、また嫌がらせが始まったという。どうやら、いじめの筆頭は、第一王子の許嫁である公爵家のご令嬢らしい。


公爵令嬢のエリカは、教師の中でもとても評判が良い。自分より家格が下の教師達になめた態度をする生徒達が多い中、彼女は、成績優秀なのはもちろんだが、教師にも他の生徒にも、自分の身分を笠に着る事なく、まじめに実直に課題に取り組んでいる。そんな彼女がいじめの筆頭とは思えないのだが、ずいぶん身分の下の女に自分の婚約者を取られたとすれば、あり得る話なのかもしれない。


一度シャーロットに確認してみたところ、彼女の教科書やノートが紛失したり、制服が切り裂かれたりと段々エスカレートしており、やはり、公爵令嬢とその取り巻きが引き起こしているとのことだった。


評判の良い公爵令嬢だったが、やはり貴族は貴族だったなとファラットは思い、シャーロットからの評価を上げる為にも、ここは自分が一肌脱ぐかとエリカの所へと向かったのだった。


ファラットの主張をエリカは、最後まで黙って聞いていた。ファラットのあまりにも一方的な物言いに、周りの者が、途中何度も口を挟もうとしていたが、エリカは、彼らを制して最後までファラットの言い分を黙って聞いていた。


そして、ファラットが全て言い終わるのを確認すると、「なるほど、彼女の証言と言い、その他の状況証拠と言い、私や私のお友達がとても怪しいですね。先生?この証言と状況証拠以外の証拠がございまして?その証拠が見つかりましたら、私も認めましょう。ただこれだけでは、わたくしは、とても自分がやったのだとは認められませんわ。」と言って、貴族スマイルで、ファラットの元をそれは優雅に去っていったのだった。


これで、エリカを糾弾できる、ひいてはシャーロットからの好感も膨らむと思っていたファラットは、あまりに正々堂々と優雅に去っていたエリカに、しばらく茫然としていたが、我に返ると途端に悔しくなり、シャーロットの証言と状況証拠以外の証拠を見つけようと心に決めたのだった。



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