4、将軍家嫡男 ジークハルト
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オストワール王国は、王国から貴族へ領土が渡され、その貴族たちは「領主」として一国一城の主となって、それぞれ兵を持ち、領土を守っているが、国の有事の際は、自分の私兵を出し、国が持つ王国軍に従うのがこの国の倣いである。
王国軍は、普段は王族の警護に王都の警備、直轄地、また、一時的に領主不在の土地も担当している。そして、この王国軍と各領主の私兵をまとめる為の役職として「将軍」があるのだが、この将軍の任に歴代数多く輩出しているのが、ジークハルトの家であった。
ジークハルトの家は、貴族ではあるが、代々武家の家柄であった為、貴族らしい貴族のソレとは家風が異なっていた。ジークハルト本人もこの貴族学校よりも王国軍を養成する為の士官学校に入学したかったのだが、高級司令官となると現場よりもなんだかんだ言って、貴族との腹の探り合いが殆どだという祖父の言葉が決定打となり、この学校に入学したのだった。
だが、入学して早々彼は、やはり士官学校に入るべきだったと後悔したのだった。将軍の任に就いている家柄とはいえ、家格で言うと格下の侯爵家。一般庶民にしてみれば侯爵家だって、雲の上の存在なのだが、この学校に入ってみれば、幅を利かせているのは公爵家とその傍系。この国を体を張って守っているのは軍だと思っているジークハルトにとって、仲良しこよしと行かなくとも、侯爵家に対する彼らの態度を見ていると何とも胸糞の悪い思いだった。
とはいえ、ジークハルトは、将来軍部の高官に就く事がほぼ決まっている為、入学当初から主君とする王家の王子であるラインハルトと一緒にいる事が多かった。主君である第一王子であるラインハルトは、公爵家やその傍系とは一線を画し、とても穏やかで聡い青年だった。驕った様子は全く見せず、普段の授業でも、どうやったら国の為、民の為になるのか常に置き換えて考えている様子は、貴族社会に嫌気がさしていたジークハルトでも素直に好感が持てたし、自分の主君として生涯お仕えするのが彼で良かったと思っていた。
ジークハルトにとって、もう1つの幸せと呼べる出会いは、シャーロットとの出会いだったと彼は思っていた。彼女の事は、転入した時から一応知ってはいたが、積極的に関わろうとは思っていなかった。だが、彼女が転入してから数か月経ったある日、ジークハルトが廊下を歩いていると、頭の先からつま先まで、ずぶ濡れになった彼女を見かけた。祖父や父に「騎士道」を幼い頃から叩き込まれている彼は、迷わず彼女に声をかけたのだった。
彼女はあまり多くは語らなかったが、どうやら他の貴族からの仕打ちにあっているようだった。「これだから、貴族は陰湿で嫌だ」と思いつつ、その日は、急いで保健医に彼女を預け、それで終わりとなったが、翌日、わざわざ彼の教室まで赴き、彼女から直接お礼を言われた。自分としては、大した事をしたと思っていなかったが、改めてお礼を言われると、なんともうれしい。しかも、こんなに華奢でかわいい女の子に、目を潤ませて上目遣いで言われたら、単純なジークハルトが落ちるのも時間の問題だった。
以来、彼女の警護的な事までするようになったジークハルト。宰相の息子に「お前の主君は、彼女に変わったのか」と揶揄されるほど、ジークハルトはシャーロットに対してずいぶんと手厚く対応していた。ちなみに、本来の主君であるラインハルトはというと、「学園にいるうちに、しっかり青春を謳歌しても良いじゃないか」と宰相の息子を諫めていた。ジークハルトの彼女への過剰な警護のおかげか、しばらくシャーロットへの嫌がらせは起きていなかった。
ちなみに、傍から見ていれば、それはもう立派にシャーロットに恋をしていたジークハルトであったが、当の本人は、全く気がついていなかった。やっと彼が自分の気持ちを自覚した頃には、シャーロットは、自分よりもラインハルトととても仲良くなっていた。自分の愛するシャーロットと自分の主君が仲良くなるという事は、自分の大切な二人が幸せになることだと言い聞かせ、やっと自覚した恋心を自分の胸にそっと仕舞う事にし、この二人が上手くいくように自分は頑張るだけだと心に決めたのだった。