14、男爵家従僕 ロンバール
オストワール王国の東に位置する帝国ラップランプには、海がない。
海がなくとも大河がある為、今まで何とかなっていたのだが、軍事力こそ使わなかったが、次々とさらに東に位置する小国を併合していった為、飢饉も重なり、食糧不足が近年深刻化していった。そこで考えた帝国上層部は、西の国の海洋資源と貿易に恵まれたオストワール王国に、目を付けたのだった。
ロンバールはラップランプの戦争孤児だった。とある男に拾われ、間諜として育てあげられた。以来、彼はこの国の諜報活動を生業にしてきた。そして、大人になった彼も、各国の孤児を拾ってきては、間者に仕立て上げ、自身の手駒として使い、命令が上から下れば、秘密裏に工作をしていた。大きくなり過ぎて、今にも腐りそうなこの国の行く末を憂いている師を横目に、ただただ自分は、自分の任務を忠実に遂行していくだけの日々だった。
ロンバールの今回の任務は、オストワール王国の国王と宰相を仲たがいさせ、帝国が付け入る隙を作る事だった。他にもいくつか作戦を立てているが、今、実を結ぼうとしているのが、王太子の破談だ。これが成功すれば、本来の目的が成功するだけでなく、王太子の評判も悪評と化して急降下するという特典付である。
適当な男爵家を脅し、従僕として男爵家に入り込んだロンバールは、育ててきた間者の一人であるシャーロットを使って、男爵令嬢として国王の息子に取り入らせ、宰相の孫娘と破談させ、その後、処理を巡って、国王と宰相に仲たがいをさせる計画だった。
ちなみに、宰相の領地は、帝国のすぐ傍で、もし疑心暗鬼になった宰相が領地に引っ込んだ場合は、帝国から甘い言葉をかけ、懐柔する予定である。
拾った孤児の中でも手塩にかけて育てたシャーロットは、ロンバールから見ても男性に取り入るのが天才的に上手かった。次々と学園の男性陣を懐柔していき、こちらにとって旨味のある情報を、シャーロットは次々と流してくれた。
エリカ嬢と、長年に渡りとても良好な関係を築いていると言われている王太子。ひょっとしたら、本来の目的ではあるものの、さすがにこれは難しいかもしれないとロンバールは思っていたが、何のことはない、あっさりと王太子もシャーロットの手管に落ちていた。その後も、シャーロットからも、見張りをさせていた何人もの間者からも王太子はシャーロットに溺れていると報告を聞き「王太子も、ただの男だったってことだな」とロンバールは、成功を確信していた。
そして今日、その仕上げとして、王太子がエリカ嬢を断罪すると聞いていたロンバールは、事の成り行きを確認する為、従僕として男爵と一緒に、卒業パーティーに参列していた。しかし、パーティーの最初こそ、婚約者であるエリカ嬢そっちのけで、シャーロットにデレデレしていた王太子であったが、断罪裁判が進むうちに、なんだかおかしくなってきたことにロンバールは気がついた。
シャーロットが報告してきた計画では、この場では、王太子はエリカ嬢に何も言わせず、シャーロットへのいじめを理由に、ただ婚約破棄を宣言すると聞いていたのに、なぜか「証拠を出せ」と言っているし、それに対し、エリカ嬢は次々と確固たる証拠を出しながら、理路整然と反論している。よくよく聞いていると、王太子はエリカ嬢が答えやすいように質問し、気がつけば、エリカ嬢ではなく、シャーロットの自作自演の証拠が列挙されている。
王太子も含め周りの空気は、もうエリカ嬢の完全勝利へとなっていた。
なんだこれは、いったいなんなんだ。
これは、まずいぞ。
一旦、撤退だ!
完全にこちらの手の内が、王太子側にバレていると悟ったロンバールは、男爵家もシャーロットも切り、残った者達でさっさと撤退しようと決め、そっとパーティー会場から出ようとしたところ、にっこり笑った王国の騎士団に捕まったのだった。