12、男爵令嬢 シャーロット
自分の許嫁を糾弾している第一王子を横目で見ながら、シャーロットは心の中でほくそ笑んでいた。
ついに、ここまできたかと。
彼女にとって、平和ボケした大商人や貴族の男たちを籠絡するのは、いとも容易い事だった。ちょっと目を潤ませて、上目遣いをし、彼らが欲しがっている言葉を紡ぐだけで、彼らは勝手に自分に都合の良いように妄想し、落ちていく。
最初は、この国一番の商人の息子に取り入り、この国の最先端の商品や情報を受け取る。彼を足掛かりとして、その次は、軍部トップの家柄の子。さすがにまだ軍部入団前だったので、重要な国防に関する事柄は、本人も知らないらしく聞き出せなかったが、彼のおかげで王太子と懇意にできたのだから良しとしよう。学校の教師まで、気がつけば籠絡していたが、これは完全にシャーロットの意図した所ではなかった。なかなか目線も態度もうざかったが、テスト問題を何となく教えてもらえたり、学校生活もだいぶ融通してもらえたりしたので、これもある意味、計画遂行の為には、良かったのかもしれない。
同じく籠絡したはずの(散々褒めて高等魔法をバンバン見せてくれた)魔術師の卵が、今この中にいないのはちょっと気になるが、このままいけば、第一王子はエリカ嬢と破談。その後、この事がきっかけで国王と宰相は揉め、この国は不安定になる予定だ。
シャーロットの頭では、その後どうこの国が不安定になるのか、わからないが、とりあえず自分の任務である「王太子とエリカ嬢の破談」を最後までやり遂げる必要がある。しかも、もし上手くいけば、「自分が王妃になれるかもしれない」というおまけ付きだ。まあ、さすがにそこまで上手く行くわけはないと思っているので、シャーロットは適当な所で、雲隠れする予定だった。
思えば、ここまでの道のりは長かった。
シャーロットはもともとこの国の孤児で、ある日、偶然この国に訪れていた他国の男に拾われた。出来なければ死すらもありうる厳しい環境の中、色々な事を仕込まれ、14になった時、とある男爵家のご落胤として、迎え入れられたのだった。詳しい事はわからないが、男爵本人の様子を見ていると、どうもシャーロットを拾った男の仲間に脅されているようだった。男爵家には、元々一人息子がいたようだが、シャーロットが男爵家を訪れた時には、既にその一人息子は屋敷にはいなかった。「もうこの世にいないのかもしれないな」と思ったが、深く考えるのは止めて、自分の任務を全うする事だけを考える事にした。
そんなことを考えながら、第一王子のすぐ隣で、小動物のように震える演技をしながら、第一王子のエリカ嬢に対する糾弾の言葉を聞いていたシャーロットだったが、第一声から想定と異なる事を言い始めた第一王子に違和感を覚え、第一王子によるエリカ嬢の断罪裁判が進むにつれて、シャーロットは徐々に焦りが出てきたのだった。