11、第一王子 ラインハルト
オストワール王国では、慣例として第一子が国王となる。
その昔、第一子と定めずに、能力のある王家の子供が国王になる時代もあったが、上手く回っているうちは良かったのだが、結局貴族の覇権争いの代理戦争になってしまう事が度重なり、その度に国力が落ちていく事となり、今では「次の国王は、現国王の第一子」と定める事になったのだった。
オストワール王国第一子であるラインハルトは、正妃の子供であり、また第一子だった為、他から文句を言われる事なく王太子となった。しかし、良き王となる為に、研鑽を積まなければ、瞬く間に傀儡の王になってしまうという怖れが常に自分の中にあり、ラインハルトは国の為にと必死に日々の課題に取り組んでいたのだった。
しかし、ラインハルトは、15歳から入った学園では少し羽を伸ばしたのだった。当初は、国政にも関わりつつ、学園生活を送ろうとしていたが、国王である父に、「これからいくらでも国政に携われる。今のうちに今しかできない事をしなさい。」と言われたからだ。
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「エリカ!お前に問う!お前は、未来の国母にふさわしいのか!」
と自分で叫んでおいて、ラインハルトは、自分がなぜ今こんな舞台を用意してしまったのか、他にやりようがあったのではないか、と自分の横にいる小動物のように震えている男爵令嬢を小脇に抱えときながら、疑問に思ったのだった。当初の予定では、この貴重な学園生活の時間を、もっと別の事に使う予定だったのに。
「わたくしは、幼き頃より、国母とは何たるか陛下を始めお妃様方に聞いておりました故、わかっているつもりです。」
そして、
「おまえは、このシャーロットに何をしたのか、
心当たりがあるのではないか?!」
と再度エリカに堂々と問いながらも、
ラインハルトは、内心とてもドキドキしていた。
それは、どの位かというと、それはもう胃に穴が開きそうな位...
聡明なエリカの事だ。自分が送った「あの言葉」を理解し、この日の為に準備をしてくれている...はずである。
しかし、もし、エリカが上手くこちらの真意を理解しておらず、この舞台が失敗に終わった場合、この日の為に、国王である父に念の為、根回しはしておいたとは言え、婚約は当然解消。
今の情勢では、良くて、当面の間蟄居。最悪の場合、廃嫡の上、生涯軟禁生活が待っている。いや、今後の禍根を残さない為にも、気づかないうちに病死に「させられる」可能性だってありうる。
何より、エリカと離れ離れになるのは、ラインハルトには耐え難かった。
政略結婚とはいえ、人生の殆どを彼女で占められている。彼女は聡明でとても優しい。自分の小難しい話にもしっかり付いてきてくれているし、間違った事があれば恐れず苦言を呈してくれる。ただカワイイだけの令嬢ならいくらでもいるが、エリカ程王妃にふさわしい令嬢にラインハルトは会ったことがない。もちろん「王妃」という事を度外視しても、ラインハルトは、生涯共に人生を歩んでいくのは、彼女しか考えられない程、惚れていたのだった。
しかも、弟であるレインハルトも、エリカの事を「大層」気に入っているのを知っているだけに、失敗出来ない。自分が婚約解消となった場合は、間違いなく、そして、いち早く彼が「新たな婚約者」として名乗りを上げる事が目に見えている。確かにエリカの将来が困る事はないと思えば、留飲も下がるが、やはり自分の隣にいてほしい。その為には、今日のこの騒ぎをちゃんと成功させる必要が、ラインハルトにはあったのだった。
「ならば自分が無実であるという証拠を、今ここで出してみよ!!」