9 裏で動いているから……
それからずっと、私は津島君と話す機会をうかがっている。が、そう簡単にはいかない。クラスは違うし、同好会の日はほかの部員がいるし、二人だけになる偶然なんてさすがに起こらなかった。待ち伏せしようとも考えたが、津島君を追いかけている女の子の目がいつどこにあるかわからないのでやめた。津島君の家に行って話をすればいいのだけど、ストーカーと紙一重じゃない。あくまで自然に、じゃないといけない。時間はどんどん過ぎていく。お地蔵様に申し訳ないと思いながら、何も進まなかった。
お地蔵様は、私の部屋に腰を落ち着けている。最初は、私が心で呼べば飛んで行く、とおっしゃっていたのだけれど、待てどくらせどいっこうにお呼びがかからないので、とうとうお地蔵さまは私のそばにいることに決めた。ベッドに置いてある大きなクマのぬいぐるみが気に入って、そこに入られた。キティちゃんのマスコットより大きいし、やわらかいので、居心地は悪くないようだ。
津島君と話ができず、気を落としている私を、お地蔵様は叱らない。
「われも裏で動いとるから、いまに時がくるじゃろう」
裏で動くって、なにをやっているんだろう、と思ったけど、お地蔵さまは教えてくれるそぶりはない。たぶん、私が考えても意味のないことだ。超えてはならない一線というものがある、って、いつだったか、山本先輩が言っていた気がする。
お地蔵様がおっしゃったとおり、‘時’は、ちゃんとやってきた。