8 ぴったりの場所に住んでいたのは
「なにしてんの?」
感情のない一本調子。振り返ると、案の定、津島君だった。ダークグリーンのボタンダウンシャツに、色あせた細身のストレートジーンズ。私服の津島君を見たのは初めて。ラフな格好がやけに似合っていて、一瞬ぼうっとなった。はっと現実に戻る。津島君が、なぜここに? 私はあたふたして、頭がこんぐらがった。何か言わなければと、とりあえず口はあけるが、言葉が見つからないのでまぬけな顔になっていたことだろう。
「おれんちに、なんか用?」
しびれをきらしたのか、津島君のほうから言葉が出た。冷ややかな目線がいたい。おれんち……って、ええ?!
「つ、津島君の家なの、ここ?」
私の声は裏返ってしまった。
「そうだけど……」
だからなに、と言いかけたようだが、そのまま黙った。
手に抱えた紙袋に、近くの本屋さんの名前が見えた。本を買ってきたのか。驚きながらも、しっかりとそういうところをチェックしている自分がいる。津島君はけげんそうな顔をくずさない。そうか、ここが津島君の自宅だったのか。なんという偶然。気分が落ち着いてきて、なんとかしゃべることができるようになった。
「三叉路調べてたんだ。そしたら、お庭が目に入ったの。ビルの間に、こんなすきなお庭があったんだなって」
津島君は柵を開けながら、
「ばーちゃんがやってるんだ」
と、ぼそりと言って、すたすたと小道を歩いて家に入ってしまった。一瞬の出来事。
私はあ然として立ち尽くした。津島君のああいう態度はいつものことなので、気にならなかった。私がどきどきしているのは、お地蔵様を祀るのにぴったりだと思った場所が、津島君の家だったこと。偶然にしてはできすぎている。
「なんとかなりそうじゃのう」
キティちゃんから、お地蔵様ののんびりとした声が聞こえた。なんとかなりそう……あっ! ひらめいた!
「あの、場所は見つかったんですから、お地蔵様から津島君にお願いをしたらいいんじゃないでしょうか?」
そのほうが話が早いですよ、と心の中で思いながら。けれど、すかさず「だめじゃ」と返ってきた。
「彼は目に見えないものを信じておらん。信じない者にいくら話しかけても聞こえないし、われの姿も見えないんじゃ……」
お地蔵様と私は、一緒にため息をついた。