表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

8 ぴったりの場所に住んでいたのは

「なにしてんの?」

 感情のない一本調子。振り返ると、案の定、津島君だった。ダークグリーンのボタンダウンシャツに、色あせた細身のストレートジーンズ。私服の津島君を見たのは初めて。ラフな格好がやけに似合っていて、一瞬ぼうっとなった。はっと現実に戻る。津島君が、なぜここに? 私はあたふたして、頭がこんぐらがった。何か言わなければと、とりあえず口はあけるが、言葉が見つからないのでまぬけな顔になっていたことだろう。


「おれんちに、なんか用?」

 しびれをきらしたのか、津島君のほうから言葉が出た。冷ややかな目線がいたい。おれんち……って、ええ?!

「つ、津島君の家なの、ここ?」

 私の声は裏返ってしまった。

「そうだけど……」

 だからなに、と言いかけたようだが、そのまま黙った。


手に抱えた紙袋に、近くの本屋さんの名前が見えた。本を買ってきたのか。驚きながらも、しっかりとそういうところをチェックしている自分がいる。津島君はけげんそうな顔をくずさない。そうか、ここが津島君の自宅だったのか。なんという偶然(ぐうぜん)。気分が落ち着いてきて、なんとかしゃべることができるようになった。

「三叉路調べてたんだ。そしたら、お庭が目に入ったの。ビルの間に、こんなすきなお庭があったんだなって」

 津島君は(さく)を開けながら、

「ばーちゃんがやってるんだ」

 と、ぼそりと言って、すたすたと小道を歩いて家に入ってしまった。一瞬の出来事。


私はあ然として立ち尽くした。津島君のああいう態度はいつものことなので、気にならなかった。私がどきどきしているのは、お地蔵様を祀るのにぴったりだと思った場所が、津島君の家だったこと。偶然にしてはできすぎている。

「なんとかなりそうじゃのう」

 キティちゃんから、お地蔵様ののんびりとした声が聞こえた。なんとかなりそう……あっ! ひらめいた!


「あの、場所は見つかったんですから、お地蔵様から津島君にお願いをしたらいいんじゃないでしょうか?」

 そのほうが話が早いですよ、と心の中で思いながら。けれど、すかさず「だめじゃ」と返ってきた。

「彼は目に見えないものを信じておらん。信じない者にいくら話しかけても聞こえないし、われの姿も見えないんじゃ……」

 お地蔵様と私は、一緒にため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ