7 三叉路には場所がない
自転車を飛ばして三叉路へ向かう。お地蔵様もついてきた。一緒に行くといわれても、重いお地蔵様の石像を自転車で運ぶなんてムリ。パンクの危険があるし、なにより、像が落ちて壊れたら大変だ。お地蔵様は、「気にすることはない」と言った。
「つくもになればよいからの」
と、涼しい顔だ。
「つく……も……?」
藻になるのだろうか?
「ちがう、ちがう。古くなった道具やなんかに魂が宿るという話を聞いたことはないかの」
そういえば、一本足の傘に目がついている妖怪が出てくるアニメがあった。沼田君が、粗末にあつわれて捨てられたものが妖怪になって祟ると、言ってたこともあったなあ。
「反対に、大事にされて供養されたものにも、魂が宿って恩返しをするという話も伝えられておるじゃろう」
なるほど。つくもというのは、ものに宿る魂のことなんだな。
「まあ、だいたいそういうことじゃ。つくも神、とも言われておって、あちこちにいるんじゃ。まあ、それはそうと、われはどんなものにも入ることができるから、心配せんでよい」
お地蔵様はそう言って、私がカバンにつけていたキティちゃんのマスコットに入り込んだのだった。キティちゃんからおじいさんの声が聞こえてくる様子を想像してちょうだい! 不気味よ。
ほかのものに入れるのなら、三叉路にあるなにか……たとえば電信柱とか……に入れば解決するじゃないかと、ふっと思った。すると、
「それができればこうしてここにおらん。つくもは、一時的な措置なんじゃから」
と声が返ってきて、私は肩をすくめた。
三叉路に行ってみて驚いた。お地蔵様を祀ることができる場所など、どこにもなかった。隙間なくビルやアパート、民家が立ち並んでいて、歩道はアスファルトで固められている。そもそも、お地蔵様を祀る場所があれば、鞘堂の中に押し込まれたりはしなかったのだから、なんとかなると楽観的に考えていた自分がばかだった。
時空のひずみは三百メートル近くにわたってのびており、その範囲内に祀ってほしいとお地蔵様は言う。土地の大きさや、人の目につくかどうかは問題ではないとも言うけど、三百メートル以内の場所には、空いた空間というものがまったくないのだった。ゴミ捨て場はあるが、そこにお地蔵様を置くわけにはいかない。どうしたものかと途方にくれていると、アパートの横に建つ一軒の家が目に留まった。
アスファルトの歩道との境に、木の柵がつくられており、それに沿って野ばらの生垣。生垣をこえて右側が庭、左側が畑になっていた。庭と畑の間のレンガ小道を奥に入っていくと家がある。二階建ての木造の家は、古かったが、ペンキもはげておらず、きちんと手入れされているのがわかった。車や人が行きかうせわしい中に、庭や畑という心休まる場所があったことに、今まで気がつかなかった。
もしお地蔵様を祀るとしたら、ここしかない。生垣のすみでいい、祀らせてもらうことはできないだろうか……。でも、私みたいな、子どもを相手にしてくれるだろうか。なんて言えばいい? あなたは神を信じますか……なんて、宗教の勧誘じゃあるまいし。
庭をじっと見ながら考えていた私の後ろから、聞き覚えのある声がした。




