20 どうしてわかってくれないの
私と津島君は沼田君を見送ったあとも、しばらく無言でそのバス停に立っていた。私はとうとう口を開いた。
「津島君……さっき、沼田君が言ってた、武士の格好をした石像。あれ、勝軍地蔵様だよ。三叉路には時空のひずみがあるんだって。沼田君はきっとそこに入り込んじゃったんだよ。お地蔵様が沼田君を助けて、この森に連れてきてくださったんだよ。お地蔵様の声、津島君も聞いたでしょ」
津島君は下を向いたまま、黙っている。
「私が話したこと、信じてくれるよね」
返事をせず、津島君は「おれ……帰るわ」と私の顔をまったく見ずにぼそりと言う。
「なんでよ……?」
私は、うんと言ってくれない津島君が理解できなかった。あれだけ不思議な体験をしたのに、どうして信じようとしないのか。
逃げるように自転車で走り去っていく津島君の背中を、私は釈然としないまま見つめていた。
「ゆっくり考えさせてあげなされ」
お地蔵様の声がした。「時間をあげなされ」。
次の日は、私たちの取材最後の日だった。すっぽかすかと思ったけど、津島君はちゃんと待ち合わせ場所にいた。「おはよう」と声をかわし、いつも通りに、常夜灯の測定を進めていく。向こうから話すまで、話題にしないようお地蔵様にきつく言われていたので、私は辛抱強く黙っていた。時間がたつのがとても遅い。
津島君が昨日のことを口にしたのは、最後の常夜灯の測定が終わってからだった。
「あのさ……昨日のことだけど……」
片づけをしながら、津島君が切り出した。




