19 時空のひずみで
「沼田君!」
自分でも驚いたことに私は大声を出していた。
「沼田君! 平気だよっ!」
キティちゃんのマスコットの存在が、力を貸してくれていると感じる。私は必死だった。
「顔あげて!」
沼田君はゆらりと顔をあげた。絶対ひきつっていたと思うけど、私は精いっぱお笑いかけた。沼田君をしばっていたきつい縄が、するするとほどけていくのがわかった。よかった……ほっとして、私の身体からも力が抜けた。ため息がもれる。
「大丈夫だ……もう……大丈夫……」
津島君は自分にも言い聞かせるように、何度もうなずく。沼田君は私達の顔を交互に見ながら、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「ここ……どこ……」
沼田君は眠りから覚めたみたいだった。「迷いの森」と津島君がこたえると、「なんで……?」と言って、記憶をたぐる。しばらくの静寂のあと、沼田君はぽつぽつと話し始めた。
「半狂乱になっていたおれの前に、武士みたいな格好をした石像がぱっと現れた……。こっちへこい、がんばってはいでろ、って剣を振り回しながらおれに叫んでた……。おれ……まだ手を骸骨にひっぱられてて、このまま連れ去られたら死ぬんだって……こわくて、死にたくなくて、もう夢中で武士のほうへもう片方の手を伸ばしたんだ……」
沼田君は泣きながらもがき続けていたのだろう。三叉路のマンションで消えたと聞いたとき、私にはぴんときた。沼田君は時空のひずみに入り込んじゃったんだって。それをお地蔵様が助けにいってくれたんだ。沼田君が言った武士の石像は、お地蔵様だ。私は思わずそのことを言いたくなったけれど、黙っておれ、というお地蔵様の声が聞こえたので、おさえた。
「骸骨につかまれていた手がだんだんゆるくなって……おれは思い切りふりほどいた……その反動で地面に転がって……。怖くて、ふかくにも泣いて……」
津島君はそっと沼田君の肩に手を置いた。あんなにオカルトが好きな沼田君も、実際に自分の身に起これば、喜んでなどいられなかった。
「お前達がきてくれなかったら……」
沼田君は津島君の手をぎゅっと握った。
沼田君が正気に戻ったので、津島君は周藤君の携帯に電話をかけ、沼田君の無事を伝えた。周藤君はまだマンションで待っていたので、沼田君はバスに乗って向かった。