18 迷いの森で
自転車に飛び乗り、私は津島君をせかした。大通りを飛ばしてまっすぐに迷いの森へと急ぐ。先頭をきってたのは私。津島君はだまって私についてきていたけど、頭の中は、真っ白だっただろな。
迷いの森の入り口に人気はなかった。自転車をとめ、二人で森の中に入っていく。入り口付近は、木も切り倒されて見通しがいいが、森は根津治山のふもとだから、道は奥まで、深く、続いていた。遊歩道なんかもないので、どうしたものか立ちすくんでいると、お地蔵様の声がした。
「右のほうへ向かえ」
よかった、戻ってきてくれた……。津島君は、姿が見えないのに声だけ聞こえる状況がまだ理解しきれていないようで、声が聞こえた途端にびくっと震えた。
お地蔵様に言われたとおり、右へ進んでほどなく、すすり泣きが聞こえてきた。
「沼田……!」
津島君が駆け出し、木の根元に横たわって小さくなっている沼田君を見つけた。赤ちゃんのように丸まって、しゃくりあげている。
「沼田!」
沼田君の体がぴくりと動いた。駆け寄る津島君を、目だけでとらえた。津島君だと認識した瞬間、沼田君のぐしゃぐしゃの顔がゆるんだ。
「津…島……?」
「大丈夫か!」
津島君が乱暴に抱き起こすと、沼田君はなされるがまま、どっと津島君に体を預けた。
「怪我は……?」
沼田君は返事をせず、目を見開いたまま、
「た……助かったのか……?」
と、しわがれた声を出した。津島君が返事の代わりにぎゅっと強く肩を抱くと、沼田君はそれをふりほどくように身をよじって頭を抱えた。
「……急に周りの景色がゆがんで……くらっとして……。わからない……。ぼやっとして、どこにいるのかわかなくなって……そしたら後ろから手首をつかまれて……」
沼田君は絶叫してもだえた。映画のワンシーンみたいだった。でもこれは演技ではなくて本当のこと。私は背筋が寒くなり、足ががくがくした。
「骸骨だった……強い力でおれをひっぱるんだ……」
ぶるぶる震える沼田君に、津島君はかける言葉がない。強く沼田君の手を握り返す。それに驚いた沼田君が、激しく手をふりほどいて、わああああーーーと、頭を抱えた。