17 消えた沼田君
「佐々木! 沼田が行方不明になったって!!」
その日、沼田君たちも、ミステリースポットの取材に出ていた(夜の取材は危険だと禁止され、しぶしぶ昼間の取材になったのだ)。三叉路のちかくのマンションの、一階の空き部屋(そこはなぜか誰も入居しない謎の部屋だという)を調査中、突然、沼田君の姿が消えたというのだ。近くのコンビニにトイレにでも行ったのかと思って、周藤君もしばらくは気にせず待っていたが、二十分たっても来ないので沼田君の携帯に電話をしてみたが通じない。三十分たっても、四十分たっても戻ってこないので、コンビニまで行ってみたが姿はなかった。心配になった周藤君は沼田君の自宅にもかけたが、やはりいなかった。いよいよ不安になり、山本先輩に電話をするが留守、そこで津島君の携帯にかけてきたのであった。
「すぐそっち行くから!」
津島君は携帯をチャッと切り、自転車をつかんだ。
「三叉路のマンションにはおらん」
お地蔵様の声がはっきりと聞こえた。「えっ」。津島君の行動が一瞬止まった。
「佐々木、今……」
津島君の声をさえぎるように、お地蔵様の声が大きく響いた。
「迷いの森へ行け。今、そこへ導いておるところじゃ。急げ」
お地蔵様の声はそこでぷつっと切れた。沼田君を助けるために向かったんだってこと、私にはわかる。
「聞こえた……よね?」
私は津島君の顔をじっと見た。青ざめている。
「い、いまの声、お前……?」
よかった、聞こえたんだ、津島君にお地蔵様の声が。沼田君行方不明を聞いて動揺していた津島君にすきができたから聞こえたんだろう、って、あとでお地蔵様がそう言った。
「私じゃない。あんな声、出せないよ……。それはわかるでしょ。私が話した、勝軍地蔵様の声だよ」
「しょ、しょうぐん……じぞう……」
津島君は、おびえていた。お地蔵様に最初に会った私も、こんな顔をしていたに違いない。津島君はいつも冷静なぶん、ギャップが激しく、私は悪いとは思いながらも、情けないその顔(ごめんね、津島君)を見て、笑いたくなってしまった。
「そう言ったじゃない。信じられないかもしれないけど、勝軍地蔵様は話すことができるの。今、沼田君を助けに行ってくれてる。迷いの森に行けって。急がなくちゃ!」