16 やっと伝えたのに……
「あのさ……根津治寺に、本尊の聖観音像のほかにも、仏像が祀られているの、知ってるでしょ」
さらりと言えた!
「ああ」
津島君は鞘堂の内側を念入りに調べながら、気のない返事をした。
「私、その中の、勝軍地蔵に興味があってね」
「うん」
「どんな姿しているか、知ってる?」
しばらく間があいて、
「たしか、武将みたいな甲冑つけてるんじゃなかったっけ」
津島君は思い出しながら言った。
「そう。私ね、その勝軍地蔵に会ったんだ」
私は「会った」というところを強調して言った。
「へえ……。……えっ!」
津島君はそこでやっと私のほうを向いた。
「一般には見せてくれないはずだろ……? 写真さえ、撮っちゃいけなくて、本にも載ってなかったじゃん」
「うん。だけど、お寺で会ったんじゃないの、その勝軍地蔵は今はお寺にはいないの」
私はできるだけ冷静に言った。自分をばかにしているんじゃないかと津島君が怒り出しそうだったから。実際、津島君はうたがわしそうな目になっていた。
「……どこで見たのさ」
「三叉路。でも、私が会ったのはここ、ここにいたんだよ」
私は常夜灯の火袋のところを指差した。津島君は火袋のところをじっと見入った。そこでお地蔵様、登場! 私の時と同じように、姿を現してくださることになっていた。のだが――。お地蔵様は――出てこない!なんで??
「勝軍地蔵がこんなところに安置されてるわけないだろ。佐々木、オレをからかってんのかよ」
「よ、よく見てよ。出てきてしゃべるから」
「はあ?」
百パーセント信じません、という顔つき。それでも津島君は私が指す常夜灯を見てくれていたが……。何の、動きも、ない。
「あのさ、そういう話、嫌いなんだよね」
津島君の声は、明らかに怒っていた。えー、ええ!?
そのとき、津島君の携帯が鳴った。津島君が話をしている間に、お地蔵様の声が、デイバッグにつけていたキティちゃんのマスコットから聞こえてきた。
「すまぬ……やつに目に見えないものを信じようとする気持ちがまったくなくての……」
何度も姿を現そうと試したけれど、どうしてもできなかった、とお地蔵様。
「……心が硬くて……硬くてのう」
突然、津島君が私のほうを向いたので、お地蔵様の話が途切れた。