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14 問題は自分たちで片づける

津島君はいつでもぶっきらぼうなしゃべり方をするけど、自分の興味のあることを話すときには少しだけ人間的になる(やわらかい表情になるって言い換えたほうがいいかな)。おばあさんに聞いてみたら(津島君があの家で一緒に暮らしている「ばーちゃん」。津島君が「ばーちゃん」というときは愛情がこもっているのがわかる)、本に書いてあることや、書いてないこと、いろんなことを話してくれたんだって。


たとえば、江戸時代の常夜灯は、柱(火をつける火袋(ほぶくろ)の下の部分で「竿(さお)」とよぶのだそうだ)の形がほぼ円柱で、きれいな装飾もされているものが多いこととか、あるいは、根津治に向かう旅の途中、あるいは根津治に参拝後に具合が悪くなって道にたおれて、亡くなった人もいて、その人びとを供養(くよう)した供養塔もあるとか。昔の旅は今と比べると過酷(かこく)だった。楽しい、とはほど遠いものだったって。


津島君は家の回りの常夜灯や鞘堂をおばあさんと一緒に見に行って、どんどんおもしろくなったんだって(そう言ったのよ、津島君が!)。

やるとなったら真剣に取り組むたちで、去年の文化祭で沼田君が、津島は完ぺき主義者なんだよなって、ぼやいていたことを私は思い出していた。私が投げ出した難しい古文書(こもんじょ)なんかも読もうとがんばっている。問題があっても、あきめずに取り組もうとする人なのだ。


たとえば、常夜灯(じょうやとう)鞘堂(さやどう)を回る足は、二人とも自転車だ。自転車で運べる荷物には限りがある。一番の問題は、常夜灯や鞘堂の高さを測るための台だ。脚立(きゃたつ)は長さがあって重く、炎天下の中、かついで自転車をこぐには無理がある。常夜灯だけだったら、自転車をよこにつけて後ろの荷台に乗って測ることができるが、鞘堂がある場合は、扉が小さすぎて自転車を中に入れることはできない。自治会の人に脚立をかしてもらうよう頼むにしても、いつも自治体の人が取材の時間にいてくれるわけではないので、脚立の代わりになるものはやはり必要だった。


悩んでいると、津島君が自分で作ると言い出した。コの字型の木の台を、サイズを少しずつずらして作れば、ピラミッドのように重ねて使うことができるし、しまうときはその逆で、重ねてしまっていけるので、自転車でも運ぶことができる、と。

「ぐらぐらしないように幅を広くすればいい。常夜灯も鞘堂も、高さは高くっても2メートルくらいだろ。だったら、台は三つもあれば届くだろ」

 相当な自信を持っている。「作れるの?」と私が聞くと、何度も作ったことがあるという。


「ばーちゃんの庭の花台さ。今まで父親と一緒にいくつも作った。今度作る台も、使い終われば花台に使ってもらえる。ばーちゃんが喜ぶ」

 一度見たきりだから、津島君の家の庭に花台がどれくらいあったか思い出せなかったが、とてもいいアイデアだったので、

「それは一石二鳥だね! すごいよ、津島君」

 私は感心して言った。津島君はまんざらでもなさそうに得意げな顔をした。


津島君のほうが私より熱心なんじゃないかと感じることは、けっこうあった。そんな津島君ならきっと、ちゃんと話せば、お地蔵様のことをわかってくれるんじゃないだろうか? それが甘い考えだったことが、あとになってわかるのだ……。


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