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10 思いがけずペアになるとは

ミステリー研究同好会の、文化祭での出し物を決める日のことだった。文化祭は九月の第三週。夏休み前に出し物を決め、夏休みが終わるまでに調査を終えて、九月に新学期が始まってからは仕上げ作業、ということになっている。


 三年の山本先輩が、ミステリー小説研究を一人でまとめて最後を飾りたいというので、残り四人でテーマを決めることになった。沼田君は、ミステリースポット研究をやろう、と提案してきた。聞くだけでぞっとする。対抗案がなければ、沼田君の意見が通ってしまう。誰か、別のテーマを出してよ、と祈ったけど、一年の周藤君も、津島君も黙ったままだ。周藤君は、オカルトがけっこう好きなので、反対しそうにない。


津島君は……どうなんだろう。表情からはなにもうかがえない。決まったことに従う、というパターンか。私は絶対、オカルトはいやだ。

そのとき、ひらめいた。お地蔵様と出会うきっかけになった常夜灯(じょうやとう)のことを。園遠矢市(そのとおやし)には、昔の常夜灯がけっこう残ってる、って、お地蔵様は言っていた。常夜灯マップを作ってみたらどうだろう? 根津治山のことをもっと調べたいと思っていたところだし、ちょうどいいではないか。


私が常夜灯や、鞘堂の話をすると、山本先輩は「へえ、おもしろいんじゃない」と興味をもってくれたが、沼田君はしぶい顔をした。普通すぎてつまらない、スリルがない、それじゃ歴史だ、というのだ。彼が絶対に折れないのはわかっている。でも、私だって、折れたくはない。恐怖でいっぱいの夏休みを過ごすのはいやだ。話し合いは平行線のままだった。


「どっちもやればいいんじゃない」

 今まで黙っていた津島君が、口を開いた。みんなが顔を見合わせた。

「そうだよな、去年がひとつのテーマだったからって、今年もひとつにしなくちゃいけないって決まりはないもんな。だけど携わる人数が少なくなっちゃうな……」


「いいです!」

 私も沼田君も、同時に強く言い張った。この際、人数が少なくなって作業が大変になるのはいたしかたない。

「そんじゃ、二人ずつに分かれて、それぞれ調べるってことでいいな?」

 山本先輩のまとめに、一年の周藤君が、そろりと手を挙げた。

「あのー、おれ、ミステリースポットのほうがいいんですけど……。だめですか……?」

 周藤君は、「だめですか」のところを、津島君を見て言った。残っているのが津島君だけだったから。

「いいよ。おれ、残りもので」

 津島君は、そう言って、うーんと伸びをした。自分の意見がないのか! 私はちょっとむっとしたけれど、よくよく考えたら、二人で調査に行くってことで……それって、邪魔(じゃま)されずに話ができるってことで……つまり、自動的に話す機会ができたっていうことじゃない!


「じゃあ、取材の計画はそれぞれ立てて、提出な。先生にチェックしてもらわないといけないから」

 山本先輩の言葉は私の耳を素通りしていった。ついに、津島君と話ができることで、頭がいっぱいだった。

 家に帰ってお地蔵様にその話をしたら、当然だというふうにうなずいただけだった。お地蔵様が裏で動いてくれたのだろう。どういうふうに動いたのかわからないけど、裏で動く、って言葉に、怖いような、尊敬のような感情がわいた。


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