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「ちょっと待って、その魔王アギィトスとの話はいつまで続くのかな?なんだかレティがとても必死で解説してくれているけど」
「最早何を話しているのか分からなくなりました」
レシーに勇者の事を尋ねると、まるで濁流の如く話が止まらなくなってしまった。しかもそれは、勇者の話ではなく魔王についてしか述べられていない。
最初に『勇者は横暴な人物であった』情報と、魔王を倒したという功績によってレシーと無理やり結婚しようとした。ことしか分からなかった。
そして今ギルベルト様の中にいる人物はアギィトスだから落ち着いているのだと理解する事はできた。
多分ギルベルト様の中には勇者と、そこに封印されてしまった魔王の2人がいるという事になるのだろう。
「レシーレシー」
『勇者の話に行く為にはアギィの話は必須です』
「でもそろそろ馬車も降りるし、その後すぐに陛下の元に行かなきゃいけない」
そこまで言うとレシーは少し黙り、分かりましたと声が聞こえてきた。
それにしても、勇者は無理やり結婚したとして、どうして愛し合って結婚をしたと語られ始めるのだろうか。
やはりそこは過去の英雄のために話を脚色したのだろうか。
『違います……』
「え?」
『……私は、アギィに恋をし、アギィの時だけ恋人として過ごした事により《愛し合った》とされる内容が残りました』
「さらっと言ったけど、アギィトスもレシーの事好きだったの?」
『……多分は、ご自身の言葉では言えないようにさせられたと仰ってました』
さっきレシーが思っていたと言っていた、アギィトスの動きはある程度勇者リヒュタインに制御されていた事が影響するのだろう。
もしくは、本当に好きじゃなかったか。
「なるほど……だからこそリヒュタインは許せなかったのか」
「何をですか」
「外見だけが良いと思って人形のように側に置こうとした人間が、実は性格も悪くなかった。しかし、その相手は自分が封じ、自分とはもう二度と話し合いなどできない相手に恋をして愛し合っている状態だ」
「たしかに?」
「しかも周りは、自分とレシーが愛し合っているだろうと思われていただなんて地獄だろうな。本来は自分ではないが、それを他人に言うこともできないからね」
まぁ、実際本人に会ってみなければ正確な内容はわからないけどね。とギルベルト様が言葉を発した所で王宮の入り口に到着した。
私は再び蘇ってきた緊張に、胃が痛くなるような感覚を覚えた。
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