96
アギィトスはそれらの質問には答える事が出来ないと言った。
「今俺は封印されているんだ。だから全て自分の思い通りに動く事はできない」
「封印?一体何に」
「この、体に」
そう言うとアギィトスは近くにあったソファへ腰掛けた、そして手を差し伸べてレシーの事を待っているように見える。
「あ、あの…結婚をしていない方とそんな近くに居ても良いのでしょうか」
「ん?ああ、そう言えば君は姫だったね。だが今は誰も見ていないよ。それに……今ここには俺と2人だけ。誰も何も言わないだろう」
「………でも、その体の人は?」
「リヒュタインは、まだ起きない。散々俺の能力を使って魔力切れを起こしたからな」
アギィトスの口から聞こえた『リヒュタイン』という名前は、レシーに聞き覚えがあった。
たしか、隣国で魔王討伐のために旅に出たとされる勇者の名前だ。
リヒュタインの中に魔王であるアギィトスが封印されているという事なのだろうか。
疑問に思ったレシーは、またごまかされてしまう可能性も考えながら勇気を持って聞いた。
「アギィトス様が魔王だからリヒュタイン様の中に封印されたのですか」
「……表向きはそうなのかもしれない」
アギィトスは悲しそうな顔をしながら俯いた。
「俺が治めていたから魔物たちも大人しくしていたというのに、隣国に、君の国に嫁ぎたくないからと我儘を持った姫と、世界一の多大な力を求めた勇者がやって来て、自分の望みのため俺を閉じ込めたと言った方真実だ」
「本当ですか」
「嘘を言って何になるんだ、俺は最早囚われの身だ。だが……貴方も同じ被害者だから」
そんな事を言ったアギィトスは、レシーの手を取って甲に口づけを落とした。
まるで紳士のような対応に、レシーはとても戸惑ってしまう、魔王と呼ばれていた人物がこんな対応を自らに行うなど全く予想をしていない。
それに、自分を見つめる瞳には、同情と哀れみの他にも何か含まれるような気がした。
「だから……?」
「俺の時位は、優しくしたい。いきなりこんな場所に連れてこられて驚いただろう」
「どういう意味…ですか」
アギィトスは黙ってレシーを見つめると、再び言えないと口を開いた。
中にいるリヒュタインが言いたくないと感じる事は言えないのかもしれない。レシーはそう納得させるとアギィトスに今後についてを訪ねた。
「帰るんだろうな、俺を討伐したとすればリヒュタインは宝が手に入るんだから」
「宝?」
「ああ、普通手に入らない『姫』とか?」
「……まさか!」
「恐らくその『まさか』だ。観念した方がいい。この男は力を手に入れる為に魔王にまで手をだす男だからな」
まさか、突然、話にしか聞いていなかった男と結婚する可能性は考えていなかった。
自分に好きな人が居たわけではないが、今の外見はエターナル姫であり、求められているのはエターナル姫だったはずだ。なり切る事を強要されては困る。
「大丈夫だ、この男が惹かれていたのは外見だけ。中身については常に悪口ばかり言っていたからな」
レシーの、心の内を読んだに違いない発言に驚いたが、アギィトスの思いやりでもあると感じた。
お読みいただきありがとうございます!




