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勇者リヒュタインは勇敢あるその剣捌きにより魔王を倒したとされている。
そして、彼は共に旅をした聖女と愛し合い、結婚をした。
ほとんどの物語はその言葉にて締め括られている。
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『リヒュタインは、横暴な人物でした』
レシーの記憶が正しければ、それは夕方の事だった。
気がつけばそこは屋敷の中で、自分は魔法陣の中に立っていたらしい。
目の前には申し訳なさそうな顔をした人物が自分の方に手を差し出して立っているのみ。
「レティシー姫か?」
「……え、ええ。貴方は?」
彼はその言葉を聞くとため息をついて『成功してしまったのか』と呟き、恭しくお辞儀をした。
「今、俺は『アギィトス・ラクスタファル』。この城の主人をしていた者だ。すまないが君には一度、自分の姿を確認してもらう必要がある」
そう言って再び、アギィトスはレシーに手を差し伸べた。
レシーは貴族のルールに則り、その手に自分の手を重ねた。
連れてこられた部屋は衣装部屋だった。
大きな全身鏡が部屋の真ん中に置いてある。
「こちらに」
「…………」
その姿は今までとの自分の姿とは一変していた。
以前の褐色の肌は透き通るように白く、真っ直ぐな真っ黒の髪もキラキラとした黄金の髪色に変わっていた。
何よりも、真っ赤で血の色をした瞳が深い海の底の様にしっとりとしたサファイアの瞳に変わっていた事が驚いていた。
「……誰?私?」
「……今日から君はその姿だ。そして、名前はエターナル、エターナル姫になる」
「ど、どういうことですか?状況がよく」
戸惑うレシーにアギィトスは再びすまないと言葉をもらした。今の状況が分からないレシーには何をして良いかも分からない。そんな彼女にアギィトスは戸惑いを隠し切れてはいなかった。
しかし、その戸惑いこそ、自分を心配しているのだとレシーは感じ、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「ここは、何という場所ですか。そして私はなぜこの姿になったのでしょうか」
「ここは魔王城だ、場所位は知っているだろう。そして、君はエターナル姫の我儘により、魂を入れ替えさせられたんだ。俺は今逆らうことができないから」
そう言いながらアギィトスは何度目か分からないため息をついた。
レシーは、『他に逆らえない事はないのですか』、と聞いてみたが、彼は『告げる事はできない』としか教えてはくれなかった。
「君は、魔王城だというのに落ち着いているな」
「それよりも驚くべき事が色々と起こりすぎて、現在ついていけてないだけです……」
レシーはそう言うと、アギィトスに対して質問をたくさん投げつけ始めた。
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