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「……な」
「そういえば!!!ギルベルト様少し落ち着かれましたよねどうしたのですか?」
口を開いたギルベルト様に被せるように質問をしてみた。
でも本当に、ここ数日に私に対して行っていた対応よりも、以前に近しい対応に戻った気がしていたのだ。先ほど、学園長と話をしていた部屋に飛び込んできて以降のことである。
一人称は不安定ではあるが、やたら私にひっついてきたりはしていない。私はこの距離がとても心地良いと感じていたのでありがたく思っていた。
「……ああ、今中の人物がまともな方だから」
「……え?」
私が驚いた顔をすると、ギルベルト様は私の手を掴んでにこりと笑った。
「レティ、俺も話すからレティも話してくれるよね?」
「もちろん、です…」
私が頷くと、ギルベルト様は手を緩く握り直してため息をついた。まるの私が悪い事を仕方なく思っているようで少しふに落ちないがここは黙るべきだろう。
ギルベルト様は先程の本を手に持ち、私に手渡してきた。
「その本は、俺の中で閉じ込められている『魔王』を開放する物だと思う」
「ま、魔王!?」
「『アギィトス・ラクスタファル』という名前に聞き覚えは?」
「アギィトス・ラクスタファル……」
その名前には全く聞き覚えはなかったが、私が呟いた直後にレシーが『アギィ!』と叫んでいた。
「レシー?」
『レティシア、アギィは良い人ですよ!魔王という名前に惑わされてはダメ』
「う、うん、いや、何も惑わされてはないというか」
『アギィが居なければ私はただ辛い日々を送っていたのです』
「ちょっと待って、状況が分からないから説明を…」
「レティ、誰と話しているの?」
あまりにも切迫したレシーに、気がつくと普通に声で答えていた。その言葉を聞いたギルベルト様が驚いた表情をして私の後ろを覗いている。
レシーも自分が慌てている事に気がついたのか、『私ったらはしたないわ』などと呟いていた。
「ああ、ええと、先程声が聞こえるようになったと話していた人物で、彼女がその名前を知っているみたいで……彼女の名前は『レシー』です」
『レシーです、ギルベルト様』
聞こえないだろうに律儀に挨拶をするレシーは外見は見えないものの可愛い人物に思える。
多分実在した時であっても『良い子』だったんだろう。
そうでなければ、毎回生まれ変わる度に恨まれていてアドバイスなどしていなかったはずだ。
少し黙っていたギルベルト様が小首を傾げながら口を開いた。
「レシー?もしかしてレティシー姫?」
「レティシー姫…とは?」
『私の名前をご存知なんですか!』
この状況をどう説明しようか。
ギルベルト様にもが聞こえるようになれば楽なのにと思った。
「ギルベルト様、名前合っているようです」
「……よく、私の中の人物が叫ぶ名前だ」
「……私の中?」
「……ああ、魔王アギィトス・ラクスタファルではなく、勇者の魂」
『勇者!?あ、あの人が……また……』
ギルベルト様が勇者と口にした途端、レシーが怯えたように声が震えていた。
しかも僅かに距離が離れてたような気配もする。
ギルベルト様と目を合わせると、少しだけ頷いた。
レシーの知る勇者の姿を聞く必要がある。
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