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あの後すぐに陛下に呼ばれていた私は、王宮へと向かわなければならなかった。
ギルベルト様は私と共に移動すると聞かず、現在は共に馬車に乗っている。
本は今晩に読むことになった。私の住む場所が学園の寮からは追い出されてしまったのでどうしたものかと思っていたら、ギルベルト様用の部屋が王宮の中にあるらしい。
理由は聞かなかったが、今日はギルベルト様もここに泊まるという。
男女が共に同じ部屋で寝ても良いのですかと聞くと、婚約者である事と人通りが少ない場所なので問題ないと言われてしまった。
確か婚約者であっても未婚の場合はこの状況は作らないようにと貴族のルールブックには書かれていた気がするのだが、私は貴族ではないし、ギルベルト様も家を継ぐ気がないと言ってきたため、考えないように努めた。
それよりも陛下から何を言われるのかの方が余程重要に思える。
以前陛下の命で倒しに行った魔獣も、例の平民のパートナーとギルベルト様で倒した話が先行しており、私の名前の《レ》すら出てこない。
報告でも私の登場はかけらもない可能性があるので正直ビビっている。
だって、あの平民のパートナー達に見せつけてこいという命にすら背いた事になってしまうではないか。
ただ無慈悲な陛下であれば今回の処遇も、もっと残酷な対応だったはずなので少しだけの期待を胸に抱き、平常心を保っていた。
「しんどい」
「レティ、顔色悪いね」
「陛下にお会いするだけで緊張で死にそうなのに、こないだの命令を全うできていないので、もっと死ねます」
「はは、陛下は本当の事を知っているはずだから、そんなに緊張する必要はないよ」
貴方は、陛下と以前からやり取りがあったからそんな簡単に言えるんだよ。と内心では悪態をつきつつ、少しだけ和んだ心に「何かあればギルベルト様だけは味方だから」と鞭を打っておく。
大丈夫、今はレシーも居るし。と考え、そう言えば頭に声が聞こえてくる事が普通になりつつある事と簡単に慣れている自分に改めて驚いた。
なんなら精神的異常を起こしている可能性だって高いのに、誰にも相談せずに、こんなものかと納得してしまっている。
これが『運命のパートナー』の宿命に慣れ始めた人物の末路なのか。とどうでも良い事を考えてしまった。
すると、レシーの笑い声が聞こえてくる。
「うわっ」
「ん!?」
レシーの声に驚いて声をあげると、ギルベルト様も驚いていた。まぁそれはそうだろう、突然隣にいる人物が驚いたら普通にびっくりする。
「え、どうしたの急に」
「あー。ギルベルト様、言い忘れてた事がありまして」
そこまで言って私は口を閉じた。
声が聞こえるようになったと伝えて、この人は心配で死んでしまうのではないかと思ったからだ。
私は陛下に会って緊張で死ぬと言うのは言葉の綾であるが、ギルベルト様の場合は本当に死んでしまうのではないかと不安がある。
「レティ?」
「んん……どうしよう」
私は、私の頭の中にある言葉の中でも不安を与えないような台詞がないか必死に探した結果。
「私も、声が聞こえるようになりました……」
確実に心配させる内容で伝えざるおえないと判断をする事になったのだった。
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