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ララと共に着替えをしていると、隣からガタンという音が聞こえてきた。加えて聞こえてくる侍女達の悲鳴に、私とララは慌てて隣の部屋に向かう。
「ギルベルト様!?」
そこには青い顔で倒れるギルベルト様がいた。
駆け寄ると眉にシワを寄せて冷や汗を流しながら荒く息をしている。これは何かの病気じゃないのかと思い、声をかけながら片手に掴まれた本を抜くと、毒が抜けた可能に穏やかな表情に戻った。
一先ずギルベルト様をベッドに寝かせるためにギルベルト様の部屋へと入った。いた仕方ない、緊急事態なのだから。
ギルベルト様を横に寝かせると、ララが本を手渡してくれた。
やはり、先程持っていた本を離してから顔色が良くなったように見える。
何が書いてあるのかを確認しようと開こうとした瞬間、ギルベルト様の手によって阻まれた。
「だめだ。開いては」
どこからそんな力が出るのかと思うほど、すごい強さで腕を掴んでくる。気を失っていたのに、急に起きては体にも良くないはずだ。
「ギルベルト様、寝ていなくては…」
「レティ、それを返して」
「……ダメです。これ持っていたらギルベルト様顔色悪くなります」
「いやだめだ。それが無いと、俺がレティを好きだと分からなくなるんだ」
「いいえ」
私は本を持ち上げてギルベルト様の手を押し返した。
「ギルベルト様。もう無理しなくて良いですよ。きっとパートナーの力で私の事を好きになりかけているのを、ご自身の気持ちだと思いたいという気持ちも分かりますが。無理に自分の気持ちであるように取り繕わなくて良いのです」
私が本をギルベルト様から離しつつ、そうまくし立てると、ギルベルト様の表情が悲しげに歪んだ。
そして、掴まれていた腕からもするりと手が離れる。
「レティは俺を信じてくれないのか」
「え………」
私の事を真っ直ぐに見つめながら、ギルベルト様の目がうっすら充血しているように見えた。
常に悠々と構えていた人物だと知っているだけに、普通ではあり得ないことだと理解できる。
どうしたのですかと、問いかけようとしたその時、後ろから学園で働いている侍女が話しかけてきた。
「レティシア様、学園長がお呼びです」
「学園長が?」
「はい、急ぎ向かっていただきますよう」
私はため息をついた後に分かりました。と答えると、侍女が出ていくまで見届けた後、ギルベルト様に話しかける。
「ギルベルト様はもう少しゆっくり休むべきです。精神的にも不安的になっているのではないですか」
「……ああ、そうだね」
私の言葉にギルベルト様が頷いた。
その表情に、別の誰かが重なったように見えて目をこする。
「……レティ?」
「あ、いえ……なんでもないです。行ってきます」
なんだか懐かしいような気持ちになったことに違和感を覚えつつ、私は学園長の元へと向かった。
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