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「ギ、ギル様……自分で食べれますから」
「私からの食事はいらないの?」
「……い、いや」
明らかにギルベルト様の様子がおかしい。
私が倒れてから目覚めるまでほんの2日。
そして現在、目覚めて部屋に連れてこられてから2日目のお昼だ。
確かに連れてこられた直後は手に力が入らずご飯なども食べさせてもらっていたのだが、手が使えるようになった今でもギルベルト様自ら食事を運んできて手ずから食べさせようとしてくる。
そもそも侍女のララに食べさせてもらえば良かったのではないかと思わずにはいられない。
他にも、移動中もずっと側に居ようとするし(初めは全て抱き上げられそうになった)寝る時も私が寝付くまで離れない。そろそろ授業にも出たいのだが、同じ授業を取ろうとしそうで口に出せていない状況である。
加えて服やアクセサリーなどを大量に買い与えようとしてくる。
必死にいらないと伝えたのだが、自分の妻になるならば必要だと聞かないし、勝手に採寸されてすでに3着ドレスが届いている。
明日にはオーダーメイドのドレス達が届いてしまうらしい。
もしかして運命のパートナーの力ですかと問いかけると、それだけは絶対に無いと言ってくる。
「いい、レティ。私の中のもう1人は無理やりにでも手籠にしようとする人物なんだよ。こんな物を送ったりなんかしないはずだ」
「は、はぁ……」
このように物を多量に送りつけたり、べったりとくっついてくる事は無理やりとは言わないのだろうか。
という疑問は聞かない方がいいだろう。
それよりも、取り繕ったかのように対応してくる事が気になる。ずっとご機嫌を取られているようで気持ちが悪いし何よりギルベルト様ではないみたいなのだ。
「ギルベルト様」
「……レティ、私のことは」
「まだ、身分が違いますから。そう呼ぶ事が辛いのですが」
「……そうか、では無理をさせて悪かったね。すぐにでも結婚を進めて呼べるような環境にしよう」
「えっと……大丈夫ですか?無理をして」
「無理など何もないよ、大丈夫だ」
「…………」
明らかに痩せた顔に無理に浮かべる笑顔は、とてもじゃないが大丈夫とは言えなかった。
だが、先日から毎日大丈夫ですか。と聞く私の声は彼に届かない。恐らく毎日聞いている事すら彼の頭に記憶にないのかもしれない。
何もできない自分が歯痒く、そして申し訳なかった。
共に頑張るなどと言っておきながら、主に動いてくれるのはいつもギルベルト様なのだ。
自分は厄介ごとを持ち込む役割を担っているのみ、ただの疫病神のようだ。
最近は女性関係も遊んではいないようだし、生徒会の仕事も持ち込んで夜までやっているらしく、自分の時間を全く作る様子もないとララが教えてくれた。
そもそもこんな数日で、こんなにやつれるものなのか。
肌も以前よりも青白く、不健康にしか見えない。
「そろそろ着替えの時間?」
「え、ああ。はい」
「では、外で待っているよ。またあとで、私のレティ…」
髪のかかるおでこにキスを落としてギルベルト様は扉から出て行く。
まるで王子様のような仕草に、私は心にモヤがかかったような気持ちになった。
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