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その力がレティシアのものだとすぐに分かった。
何故かいつもより心地よく感じるのは体が疲弊しているからだろう。
体にある傷がみるみるうちに塞がり、体力までもが戻って来たように感じた。
更には魔力までもが回復していると分かる。
ギルベルトはこれほどまで強力な回復魔法を始めて体験し、改めてレティシアの魔力が麻薬のようであると思った。
先ほどまでの劣勢から再び平行線位まで持って来れただろう。レティシアの魔力量は少ないので先ほどの対応だけで動かなくなっている可能性もあるが、もしかしたら《アップ》位ならかけてくれるかもしれない。
そう思うと力がみなぎってくるようだ。
魔獣が再び襲いかかってくるも、回復してやる気満々の自分には受け止め切れない可能性は最早無い。
何度も降りかかる爪やクチバシにも、難なく交わし、叩き返した。
いける。
そう思った瞬間。
再び自分にレティシアの魔力がかかった気配があった。
その直後、急激な速度で魔獣へと近づくと、魔剣を魔獣の体に突き刺す事が出来ていた。
ギャァァァァ!!!!!
そんな声をあげながら静かに倒れた魔獣を確認し、ギルベルトはすぐさまレティシアの姿を探す。
崖の上にレティシアの魔力を感じると、久々に会えた恋人の元へ駆け上がるような勢いで駆け上った。
魔力不足からか真っ青な顔をしたレティシアがうずくまっている。
先ほど倒れたばかりなのだから、こんな魔力を使用すれば体が危ない場合も考えられた。
「レティ、レティ!」
「良かった……無事で……」
ギルベルトが声をかけるとレティシアは弱々しく手をあげながらそんな事を言ってきた。
自分がこんな状態なのに人の心配をするなど、この愛おしい気持ちを何と表したら良いのか分からない。
「魔力不足だね、本当は分けてあげたいけど」
「大丈夫です、大丈夫」
手を握ると本当に安心したように力が抜けて、支える手が重くなった。
ゆっくり閉じた瞳を数秒見つめて、ギルベルトはレティシアを優しく抱きしめる。
やはり、心も体も……彼女がほしい。
レティシア自身がすべて。
何度も思うその気持ちが、本物なのか偽物なのかぐちゃぐちゃになっておかしくなりそうだった。
幻の中のレティシアはレティシアではないと分かるのに、自分で自分の中が分からない。
この、『無理やりにでも手にしたいと思う気持ちが、自分自身では無いと思いたい』という気持ちを感じている事も、もしかして自分ではないかもしれない。
レティシアの事が好きな自分が偽りの可能性があるとも理解している頭で、どんどん好きになる自分に苛立ち、自分自身に気持ちを問いかけ、そしてもう、どうしようもないと諦める。
「レティ……ごめんね」
やっと魔獣を倒した開放感もあったが、それよりも母からの婚約の話を早く聞きたい。
ギルベルトはレティシアに対し、権力のある自分が申し訳ないと思っていた。
こんな訳の分からない想いを抱かれ、ギルベルトが権力がある家にいるばかりに、2人の婚約は急速に進むことだろう。
辺境伯家から婚約が申し込まれれば平民のレティシアに拒否権はない。
だがきっと驚いた顔はしても拒否はしないはずだ、レティシアはかなりお人好しである。
それを知っていて母に協力を頼んだことに罪悪感はない。
これでもうレティシアは手元に置いておけるのだから。
だから少しだけも謝りたいと、ギルベルトは懺悔の言葉を並べていった。
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