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1番の問題点は、自らの過信であるとは良く聞くが。
それは例えばクラスで1番の成績を修めていたとか、それなりの理由があるはずである。
だから何故、この2人が嬉々として魔獣に向かっているのかがギルベルトには全く理解できなかった。
小屋から少し崖を降り林の中を歩くと、自然にできたクレーターのような場所に魔獣は寝ていた。
そう、寝ているという絶好のチャンスであった。
ギルベルトが2人に黙っているように指示を出し、バレないように近づくまでは良かった。ギルベルト自身も、これなら何事もなく終わりそうだと安堵した時である。
《《黄金のスター!!》》
平民パートナー2人の叫ぶ声が聞こえてきた。
その声は魔力の影響なのか、林全体に響き渡り木々を震わせる。
2人が作り出した光が天高く上がり、光が辺りを覆い尽くした。まるで幻想的なその景色は自分に力が湧き起こりそうである。
_______グルルゥ。
ムクリと、魔獣が起き上がり、近くまで来ていたギルベルトを睨みつけた。
意味もなく流れる汗が、今までないほど危機的な状況であると知らせてくるようだった。
お互いに隙を見せないように睨み合い、ギルベルトは少しずつ後退を試る。
「ギルベルト様、どうですか!!!」
「ばかっ」
そんな時だ。
平民のパートナー達が無神経にも飛び出してきた。
魔獣はすぐさま標的を変え、2人に飛びかかっていく。
「クソッ」
叫んだのは無意識だった。
間に滑り込み、反射的にその爪を弾く。
しかし、すぐさま降りてきた魔獣のクチバシが肩をかすった。傷は浅かったが僅かに流れた血に平民の女の方の顔が青ざめる。
「きゃぁぁぁー!」
「逃げろ!!!!」
ギルベルトが叫ぶと同時に駆け出した2人の方へ行かせまいと剣で対抗するも、早い攻撃に少しずつ圧されているのが分かった。
レティシアが起きていればと苛立ちつつも、止むを得ず1度その場を離れる。
2人と同じ方向に走る魔獣を追いかけて走るも、やはり段々離されてしまい、焦りを覚えた。
「いやぁぁー!」
《シールド!!!》
使い慣れないその魔法を使い、なんとか追いついたが現状は全く整っていない。寧ろ最悪の状態だった。
息が切れ僅かに負傷した自分と、1ミリも効果のない魔法が使える平民が2人。
先ほどのよく分からない光も、ただ凄く綺麗な光が周りに広がっただけだ。
「レティ……」
レティシアの魔力が欲しい。
それならば一瞬で倒す事ができるはずなのに。
グラリと頭にモヤがかかりかけた。これはまずい。
「やだぁ!死にたくない!!!」
はっと我に帰ると一瞬のうちに魔獣が2人に襲いかかっていた。無意識に動いた足が魔獣と2人の間にギルベルト自ら向かわせ、攻撃をギリギリ剣で受け止める。
「ぐ…………」
「ギ、ギルベルトさまぁ……!」
「固まらないで早く逃げろ!!!防御魔法は使えないのか!?」
ギルベルトがそう叫ぶと2人は慌てたように走り出した。
どうやら使える魔法自体あの幻想魔法のみのようで、なにも魔力を使う気配がない。
これでは守りからすべてやってあげなければ2人は死んでしまうだろう。
しかし、先ほどから剣に流し続けている魔力の減りがいつもより早く、このまま徐々に力を削られれば負ける未来しか見えない。
こんな2人さえいなければ逃げならが上手く戦えるはずなのに。とギルベルトは思っていた。そんな時、先ほどのモヤが再び蘇える。
「な……」
ガリッと音が聞こえ、気がつくと自らの腕に爪で引き裂かれたような跡があった。
またも無意識で僅かに防ぐ事ができたものの、完全に避ける事ができなかったのだろう。
ギャァギャァと魔獣が叫びながら少し後退している。
何か、攻撃でもはいったのだろうか。
「はぁ、はぁ………」
息が先ほどよりも上がってきている。血が止まらず、このままでは出血で倒れてしまいそうだ。
もう、2人を置いて、逃げてしまおうかと思った時、
ギルベルトは、淡いオレンジの柔らかな光に包まれた。
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