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外は異常なほど空気が霞んでいた。
目が慣れるとそれが砂埃だとわかる。
「なんだ…?」
「ギルベルト様!!!大変です!目標とは別の魔獣が大軍で押し寄せているため、団員はそちらに回るよう指示がありました!」
「大軍で!?」
確かに空気の中に散る魔力が僅かにおかしい動きをしている。
通常突然魔獣の大軍が現れるなどあり得ない。だが、その事について思考を巡らす事もできないのだろう。
何故なら、自分は、これから団員達と向かうはずであった魔獣を倒しに行かなければならなくなったからだ。
ギルベルト自身が倒した事を見せるための承認要員としても多く取られていると予想出来るとはいえ、流石に1人で倒す事は厳しい。
そう考えて頭を捻らせると、予備に来た団員が言葉を続けた。
「あの平民のパートナーと倒しに行って頂くことになりました」
その発言に驚いて数秒固まる。
あの、戦闘などやった事がなさそうな2人と3人だけで行けというのか。倒せなくなる可能性だって出てくるではないか。
「……いや、あの2人は恐らく邪魔に……」
「ギルベルト様!!一緒に倒しに行けるなんて嬉しいです!!!」
「ぜひ、僕たちと行きましょう!」
気がつけば例の平民2人に囲まれていた。
その雰囲気から、先ほどつい出てしまった本音通り邪魔になる気しかしない。
ちらりと団員を伺うと、申し訳なさそうに首を横に振った。
なるほど、この2人たっての要望により、ここにいるようだ
先ほど聞こえてきた団員達との会話からしても、この2人が何故か我儘であり、言う事を聞かない事は分かっている。
我儘し放題のあちらより、ギルベルトなら制止をかける事ができる可能性にかけられたのかもしれない。
大変迷惑な話ではあるが。
「2人とも、これから行くのは本物の魔獣の元だ。遊びではないよ」
「分かってます!」
「だから私たちは緊張でなんか気絶しません!」
その言葉がレティシアの事を指しているなど、言われなくても明らかであった。
遊び感覚で行こうとしている2人よりも、明らかな恐怖を感じてくれていたレティシアの方がよほど戦闘に適している。
戦闘は死と隣り合わせ、そこの理解が必要なのだから。
ギルベルトは既に疲れている感覚に気が遠くなりそうだった。むしろ、気絶して無かったことにしてしまいたい。
そもそも、レティシアが原因不明で倒れている状況で呑気に3人で戦闘などやりたくはないのだ。
「…………」
つい、何も返す事なく口を閉じた。
申し訳なさそうに去っていく団員を見つめる。
去り際にボソリと、「早く向かえるようにします」と言っていたので、倒す事が目的ではなく時間稼ぎとして魔獣に挑めばよいようだ。
ギルベルトは、とりあえず現場に向かってこの平民の2人は逃げてくれないかなと、前向きに考えながら重く感じる足を動かして前へと進んだ。
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