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『聖女』
彼女は、本当の意味で聖女と呼ばれる前から聖女として名を馳せていた。
民の声を良く聞いてくれる聖女であると。
「今年はたくさんの野菜が取れました」
聖女は、頬を染めて喜んだ。
「ようやく学校に通えるのです」
聖女は、手を握って微笑んだ。
「昨日飼っている猫が死んでしまって」
聖女は、震えながら涙を流した。
彼女は、その人物の感情を同じように感じる事ができる才能があった。
その能力は彼女、エターナル姫にとって、とても使い勝手の良い能力として常日頃から使用していたものである。
本来、誰かを相手をする事が好きでは無い彼女にとって
同じ感情を向ければ分かってくれたと、勘違いをしてくれる民を同情はすれど見下してさえいた。
だが、この能力を使っていれば安泰な生活がついてくる。
そのために彼女は、程々に使い、毎日を過ごしていた。はずであった。
ある日、陛下から告げられた言葉は彼女にとって最悪の事態を招くことになる。
『隣国へ嫁げ』
陛下が言う隣国とは、砂と土と太陽で出来たような乾燥した地域の事であり、作物も上手く育たないと有名な場所である。
そんなところへ送られてしまえば、今までのうのうと過ごしていた毎日が一変してしまう事は誰しもが明白であった。
(なんとかしなければ)
そう考えた姫は、世界の外れにいるという魔王の力を使って、こちらに嫁いでくる隣国の姫との魂の交換をしようと考えたのである。
姫は何とか魔王討伐の理由を作り上げると、自らも聖女としてその戦いに付いて行った。
そして彼女は無事、隣国の姫の体に入り込む事に成功したのだった。
誤算だったのは、帰国後、『エターナル姫』は聖女として祭り上げられ国の栄光として自国に残り、隣国の姫は刺客に殺され帰らぬ人となった事だろう。
身勝手でかわいそうな我が聖女が唯一出来たただ一つの仕事は、中身を本物の聖女となる手助けをした事のみである。
ああ、聖女よ。
かわいそうな聖女よ。
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