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「レティシア、レティ!」
「はっ!」
頭を上げると目の前にはニコニコと笑う陛下の姿がある。
もしかして今言われた言葉は夢だったのではないかという期待。しかし、それは無いと頭は理解していた。
「最近現れたきな臭い『運命のパートナー』も同行させるから力の差を見せつけてきなさい」
「かしこまりました陛下」
ギルベルト様の言葉に陛下は深く頷いた。
一瞬の間に私は、人生で初めての魔獣討伐を陛下の命で行わねばならなくなったらしい。
いつもなら回る口も今は完全に閉店状態のようだ。
ほんの数回しか使用できない魔力量で一体何が出来るというのか、きっと魔剣士であるギルベルト様の力を存分に使わせて貰うしか選択はないのだろう。
しかも相手は2人であの『黄金のスター』を出すほど力を合わせて魔法を使うことに慣れているようだった。
力の差を見せつけられるのは寧ろこちらでは無いのかと不安しかない。
頭を抱えたくなる状況にも関わらず、陛下は片手を上げると周りの人たちを少し遠ざけた。そして、突然、音が遮断されてしまった。
「!?」
「おお、久々に使ったが腕は鈍っとらんな」
突然聞こえなくなった周り音に驚いて思わず辺りを見渡していると、陛下はのんびりとした口調でご自身を褒めている。
今の魔法は陛下が使用したらしい。
あまり好ましい状況とは思えず、私はゆっくりと陛下と目を合わせた。
「さて、3人になったな。本当はレティシアと2人きりでも良かったのだがきっと緊張すると思ってギルベルトも加えておいたよ」
「陛下、あまり突発的に行動を起こされないでください」
「いやなに、クリスチャードからは聞いているだろう。薬について少し聞きたいことがあったんだ」
陛下の心配りには心の底から感謝した。2人きりになんてされたら私は瞬時に失神していただろう。もしくは心臓が止まっていた。
心が強い私だって、国王と2人だけなんてどうして良いか分からない。
そして、陛下から薬という単語が出てきてようやく、何を言われているのかが理解できた。
だが、クリスチャード殿下から聞いたのは僅かに昨日の事であり、聞いていなかったらどうしたのだろうと考える位には頭が回るようになってきたみたいだ。
「な、なにをお聞きしたいのですか」
未だ声は震えてしまうが先程よりは幾分か落ち着いてきている。きっと何を言われても対応出来るだろうと自分に鞭を打った。何を言われても、失神だけはしないようにする。
「聖女、と呼ばれていた姫がいたのだ」
「は……はぁ…」
「少しだけ、王族に残る昔話をしても良いかな」
そう言って陛下は、拒否を許さない笑顔を私たちに向けてきた。
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